マドレーヌ14歳、夏。~ともだち〜
「ミケーネに行くの、そんなに楽しみ?」
王立学院の教師に語学を、現役王族と元公爵家の姫君に文化や生活様式を。実に贅沢な講師陣による家庭教育を受けていると、様子を見ていた父がそんな事を言い出した。
「母さんやお養母様が生まれ育った国だもん、楽しみだよ!」
ミケーネの祖母は実母スヴァーヴァそっくりだったし、祖父は王子様だけあって貫禄のあるおじさまだった。ウリクセス公爵は養母の実兄だからか顔立ちも性格も似た系統で、要するに「小さくて可愛いもの好き」らしい。
「それにね」
もう一つの理由はあまりに子供っぽくて気恥ずかしくて、つい、もじもじしてしまう。
「お友達、できたらいいなって」
「お友達、欲しいの?」
「うん」
コメルシー村は、元々あった寒村に盗賊が棲家としていた山を併合して出来た新しい村。地力も豊かでないために作物も碌に実らず、働き盛りの若者は近くにある大きな街に出てゆき、親の方も先の見えない村と心中するよりはマシだと年端もいかない子を商家の下働きに出すなどして、寒村だった当時からの住人は殆どが老人か、働けない者ばかり。例外といえばケルノンとその母だったが、彼女も街で働き結婚し産後に無理をしたのが祟って体を壊してしまい、夫も喪った為に故郷の村に戻っていた。コメルシー村となってからも移住して来るのは商会か軍の関係者が殆どで、歳の近い人間と遊んだ経験が少ない。
そう答えればヘルギも納得したか、顎に手を当ててふんふんと考える。
「何人くらい?」
「それは、多い方が楽しいと思うけど。……父さん?」
「今すぐに用意できるのは10人足らずってところだけど、大丈夫。ちゃんと望むだけ作るから」
「父さん?!!」
のどかな夏の午後。穏やかな筈の雑談タイムに斜め上に振り切った返答がぶん投げられる。
「用意って、何?」
「ぼくの天使を決して傷つけない、命懸けで守る、きちんとした友達だよ?」
「うん、そうなんだ。それを用意するって?何人も?何処から??」
「え?新しい村人の住居」
他意なく悪気なく告げて視線を向けるその方向にあるのは、窓のない、治験用の、軟禁場所。
「父さん?」
「ほら、新しく開発した薬あったでしょう?割と使えるかなって」
「父さん!」
「量と組み合わせで、望む結果も得られたし」
「父さん!!」
どれだけ幸せに暮らしても内に秘めた狂気は健在。なんならパワーアップしていそうだ。
「わたし!自分で!お友達つくるの!」
「そうなの?」
「うん!それも経験!!」
「うーん?」
「あと!その薬の効果も、もうちょっと聞きたいな。後学のために」




