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フルン26歳、夏。~恋の指南書〜

「うわー!これ、みんな娯楽本ですか??」


「そう。ナウルとラデュレがね、手分けして探してくれたみたい」


 ナウルからは主に恋愛系の物語が、ラデュレからは剣士や騎士が活躍する物語が、文字通り山のように贈られた。それらは木に文字を彫った版にインクを乗せてゴワついた紙に刷ったもので、本屋に並んだ時に目立たせる為だろう、表紙も黄色をベースに派手な色が多い。そのため集会所に置かれた本棚は実に明るい色彩を放っている。


「えー?!どどどうしましょう?お礼とか!」


「ミケーネ国の方々との懇親会で良くしてもらったからって、2人から村の皆へのお礼だから素直に受け取っておいたほうが良いよ」


「そんな、大したおもてなしもしてないのに…」


「充分だよ。ここはお酒も料理もおいしいし、王国内で最も安全な場所だし、彼らの子供達も喜んでいたし」


 国交の断絶も視野に入っていたミケーネ国と独自の縁を繋いだことのほうが功績としては大きいけれど、それを伝えるのは野暮というもの。ともあれ、王国内での存在感を増したことで、彼らを経験不足の若造と侮っていた連中も暫くはおとなしくなるだろう。


「ルゥくんはともかく、室長のお子様達は唖然としてましたけど…」


 屋敷を抜け出すほどやんちゃでコメルシー兄妹とも交流のあるルリジューズは同じ年頃の双子と感じ合うものがあったのか仲良くわちゃわちゃしていたが、デライト家の兄妹は緊張したようで、大人顔負けの挨拶をした後はぎゅっと手を繋いで寄り添っていた。それがまた愛らしくて祖母、母、娘の女3代が散々に構い倒して戸惑わせた次第である。最終的には、兄の背に隠れる妹を見て西国の言葉で「かわいいんだけどー!」「こんなお兄ちゃん理想!」「いいよね!」と会話するのを聞きつけた各人の兄貴分を自認する人々、具体的には王子殿下、ウリクセス公爵、ダルドワーズに回収された。


「彼らの年齢だとお茶会がせいぜいだろうから、初めての外交に緊張していたんだよ。きっと楽しかったと思うよ」


 薄く化粧を施され正装を纏った母と娘は神話から飛び出したみたいに美しく、神々しささえ感じられた。デライト家の兄妹、特に兄の方はすっかり見惚れていたけれど、フルンにはそれを伝えるつもりは毛頭ない。心が狭いといわれようとも、嘲笑われても謗られても、想い人が家族以外の誰かに想われることすら今はもう許せそうになかった。妻と娘を外に出すのを嫌がったヘルギの気持ちが痛いほど解る。


「さ。そんなことより、候補の本を選ぼうか。いつもは冒険譚だから、恋物語で良いよね?」


「そうですね!せっかくですから」


 やや強引に進めれば疑いもなく同意するけれど、解っているのだろうか。

 今はまだ集会所には子供達もいない朝早い時間で、読み聞かせの時間はお昼寝の後。それまで2人は部屋に篭って読み聞かせる本を読んで、カミシバイにする物語を決めていくのだ。砂糖菓子のように甘く、宝石みたいにきらきら輝く、美しいだけの物語を、ふたりきりで。


「じゃあこれも―――ッ?!!」


 ピンと腕を伸ばし爪先立ちになって棚の上部にある本に指を掛け懸命に取ろうとする愛らしい仕草に、思わず後ろから抱き締める。


「せんせ…?」


「そんな体勢だと転ぶよ。この本でいい?」


「あ、、、りがとう、ございます」


 体を強張らせ振り返るその顔は、戸惑いながらも頬は朱く瞳も潤んでいて。咄嗟に口から出たのだろう「先生」の二文字に小さな体を閉じ込める腕に力が籠もる。


「他には?」


「あ、その、2つ隣のも…」


「これだね」


 廻したままの左腕に伝わる鼓動はトクトクと速く、視線はあちこち彷徨うも振り払う素振りはない。


「あの、もう、大丈夫なので」


「そう」


 放して欲しそうに左手に手を重ねて、目元から首まで真っ赤にした可愛らしい顔で、男を見つめるのは逆効果だと教えてあげないと。兄ではなく先生と呼んだのは、家族でなく男として意識しているのだと、気づかせてあげないと。



「感情が入らないと、いい読み聞かせはできないよ。いいかい?きみとぼくは、これからこの本の登場人物だ」



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