マドレーヌ14歳、夏。~ブレスト〜
「んー…」
「どっか具合は悪くないか?」
「ううん。寝過ぎて体がばっきばきなだけ」
大きく伸びをして腰を捻れば、ボキボキと鈍い音が鳴る。朝食を済ませた記憶はあるけれど、どうもその後は早すぎる昼寝タイムをとってしまったようで、気づけば空は暗くなっていた。
寝ぼけ頭で慌てて朝練の準備に取り掛かろうとしたのを同じく寝ぼけ中の父に阻止され、起きる起きないとダラダラうだうだしていたところに夕食の時間だと義兄が呼びに来て、今に至る。要は、一日中ただ寝ていた。それも、仲良く抱き合って寝ていた為にうまく寝返りが打てず、全身が凝って凝り固まっている。
「後でマッサージするよ」
「いつも思うけど父さんは幾ら寝ても凝らないよね。その体質が羨ましい」
「そりゃあ、ヘルギさんは」
「ダルくん?」
「あー!とにかくもうすぐ夕飯だからな!」
迫力ある笑顔で睨む父と慌てて退室する義兄の姿に不安と不信と疑念が津波のように押し寄せる。心底気になるけれど、知ったところで幸福になる未来は見えない。知らぬが仏。好奇心は猫をも殺す。
「マディ、体調は?」
「寝過ぎて体が痛いだけだよ」
「頭痛や吐き気は?」
「ぜんぜん!」
心配そうな母の問いに答えながら思う。ワインを一気飲みした後からはよく覚えていないけれど、もしや昨夜は酷く酔っ払ったのだろうか。
「それじゃあ、今回の件、後で方向性を決めるか~」
「はーい」
*****
「とりあえず、全部神のせいだった、までは良いとして」
「もっともらしい理由付けが面倒だよな」
コメルシー2家族は、とにかくよく話す。毎食後にお茶の時間、それでも足りないと眠る直前まで、日常のあれこれを喋っている。そのせいもあってか問題が起きても翌日まで持ち越さず、解決策を講じるのが常。そんなわけで今回も集団発想中である。
「そのまま伝えたら?事実なんだし」
「信じさせるのは難しかろう」
「アレですものね」
「アレだからなぁ」
ヘルギの提案にポルミエ男爵が異議を唱え、マリー夫人とダルドワーズのため息混じりの声が重なる。一応はこの大陸の創造神なのだが、毎度毎度、ヘルギを前にキャーキャー大騒ぎするのを見せつけられれば崇拝なんてしようとは思えない。
「とにかく。ヘルギのことは隠し通す」
まさか超個人的な理由でとは言えない。それに、もしも外部に漏れればヘルギも信仰の対象になるだろうし、それを恐れた何者かから狙われる可能性もある。いずれにしても身が危うい。もちろん、犯人側の。
「でもさぁ。世界規模の嘆きって、何かある?」
「普通に考えて、無いな」
「下手な理由を作れば槍玉に挙げられる人間が出かねん」
「そう考えると、誰かお気に入りが出来たって方がまだマシか」
「あ。そういえばフューのこと気に入ってたね」
「「えっ?!」」
乗っ取られていたスヴァーヴァと本人であって本人でない深層意識が顕在化していたマドレーヌは初耳だ。純粋に驚きの声を上げる母に対して娘はいかにも嫌そうに眉を顰めてから心配そうな眼差しを伯父に向け、再び父に向き直る。
「大丈夫だったの?父さんも伯父さまも、嫌なことされてない?」
「いつも通りだよ」
「また??またあの調子で?!!」
「ちゃんと帰らせたもの、安心なさい」
果たして「帰らせた」のは誰のことか。荒ぶる養娘に強い蒸留酒を飲ませて即座に撃沈させた養母は、微笑みの裏にそれを隠して優しく声を掛けている。
「あの、始まりの女神は、悪い女神ではないんですけど、ちょっとその、押しが強いと言いますか、クセが強いと言いますか…」
「ええ、そのようですね」
自身が信仰する神から「神」呼ばわりされたフュルギエはフュルギエで、その件に関しては思考と感情を切り離すことに決め、表面上は穏やかに微笑む。
「それじゃあ、フューが女神の寵児なら良いよね」
「まあ…、女神がそう言ってるなら問題ない、のかな?」
「そうだよね。ご職業も大司教さまだし?」
金と赤とピンク。やたらと目立つ親子3人によるの雑談で、今後の方向性はゆるゆるのうちに、なんとなく定まった。




