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マドレーヌ14歳、夏。~二日酔い〜

「ダル義兄さまも伯父さまも、もう行っちゃうの?」


 朝食が済み子供達も遊びに出掛けたのを見計らい、おずおずとマドレーヌが口を開いた。夏至祭の休暇から2人がさほど間を置かず村に帰って来たのは遊びではなく仕事で、その用件は到着した日の内に済んでしまった。もう村に居る名目は何もない。


「いえ。たしかに女神がお嘆きから脱されて無事に太陽が昇りましたが、私が出張った以上、教皇から原因などを問われるでしょう。それに対する統一見解を用意せず村を離れるのは、危険かと思うのです」


「俺の方も、マディは寝てたから聞いてなかったな、実は別件もあってな」


 聞き馴れない発音発語で荒々しく捲し立て鬼神の如く怒り狂う様子をまざまざ見せられた後であっても、いつもの姿で潤んだ瞳で寂しげな眼差しを向けられれば、男2人、気づけば揃って首を横に振っていた。


「そうなの?じゃあまだ居られるのね、よかった!」


 ぱぁっと表情が明るくなり、まだ熱い薬草茶のカップを両手で包むように持ち、ふうふう。一夜明けてすっかりいつも通り、穏やかで温厚な少女がちんまりと座っている姿に皆の頬も弛む。


「あのね、昨日ね、作ったの。うふふ。きっと驚くと思うんだぁ」


「……マディ、ちょっと様子がおかしくないか?」


「ええ〜?ふつうだよ〜?」


 にこにこ笑顔で体を左右にふりふり、足をぶらぶら。幼い頃ならまだしも、双子の妹弟が出来て以降は特に年長者として手本となるべく行動しており、こんな行儀の悪い真似はしない。生まれてからずっと見守ってきた愛娘の異変に、母親の勘が働く。


「……昨日、マディが最後どうなったか、誰かわかるか?」


「深く眠っていたのでベッドに連れてゆき薬草水を飲ませ肩まで布団を掛けて、しばらく側についていたが健やかであったので退室した」


 眉毛と頬とをピクピク複雑に動かして問うスヴァーヴァに答えたのはポルミエ男爵。女神にうざ絡みされる実父(ヘルギ)に代わって酔い潰れたマドレーヌを抱き抱え部屋に連れて行った、もう1人の父親だ。


「その後は?」


「わたくしと大司教様はスヴァーヴァ様達と共に居りましたわ」


「俺とフルンは途中で俺の部屋に逃げ……、あー、飲み直して、そこに親父も合流した」


 女神に乗っ取られたせいで記憶の全くないスヴァーヴァに、女神と天使をそれぞれ守護する母子は各々の行動を説明する。

 神官でありヘルギの世話役でもあるフュルギエは殆どの王国民から崇敬される女神のリアルな姿を目の当たりにしてドン引きしつつも談話室に残り、それを横目にダルドワーズはフルンを連れてしれっと離脱した。憑いた神を追っ払うために短時間だけ荒ぶることはあっても、引き篭もった神を引き摺り出して無理矢理降ろさせた挙句に大説教するのは初めてで、ぶっちゃけ、かなり動揺していたのだ。


「マディ、昨日、何をした?」


「一言でいえば説得だね。ぼくの天使はかっこよかったし可愛かった」


「そう、か」


 思わず尋ねた相手が最も当てにならない評価を下す人物だったと気づき、そうしてスヴァーヴァはゆらゆら振り子のように揺れる娘に視線を移した。朝はきっちり夜明け前に起きてぶんぶん剣を振っていたようだし、その後は薬草園の見回りもしていて、体は健康そのものに見えるが。


「マディ?ダル達に見せたいものって?」


「えー?ないしょー」


「聞きたいなー。こっそり父さんと母さんには教えてくれないかー?」


「んー?こっそりー?いいよー」


 顔いっぱいの笑顔と幼い口調。ふんわりとした白い服。砂糖菓子のように甘やかな娘に顔を近づけると、呼気にはっきりと残る酒精の香。


「酔ってるな」

「酔ってるねぇ」


「は?」

「え?」

「ん?」

「ああ…」


「あらあら、随分と珍しい二日酔いですこと」


 夫婦の言葉に、四者四様の驚きを示す男どもの声。そして冷静に状況を把握したマリー夫人の軽やかな笑い声が連なった。


「ヘルギ、とりあえず寝かせて来てくれ」

「わかった」

「ダルも一応ついてって」

「あー、そうか、了解」


 ご機嫌に揺れる娘をひょいと腕の中に抱えてこちらもご機嫌なヘルギの後ろを追うダルドワーズの背中に、苦虫を噛み潰したような顔でスヴァーヴァがぼそりと呟いた。



「今回の新作は、夢の中の出来事だったらいいな」



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