マドレーヌ14歳、夏。~雨の日の楽しい過ごし方〜
雨の日には雨の日なりの楽しさがある。
心地よい雨音を聴きながら、ちくちくちくちく針仕事。キーバーで購入した生地が次第に服の形になっていく。双子と妹には淡い緑色の、ダルドワーズには鶯色の、長袖シャツ。これで暑い夏を少しでも快適に過ごせたらいいな、と思いながら。
「器用だよね。いつ見てもすごい」
「フルンお兄ちゃんの分もありますよ」
「嬉しいな、ありがとう」
当初はフルンのシャツは作る予定ではなかったけれど、スヴァーヴァが家族の一員に認めたことで用意した。ダルドワーズのシャツはヘンリーネックに、フルンのものはスタンドカラー。着せ甲斐のあるフルンだけにシャツも凝ったものにしたいと思い、2つの生地を使用した切り替えデザインにした。
「マディ。ダダールさんが明日の晩飯を一緒にどうか?ってさ。カリソンの奥さんと子供らも来るって」
ミケーネ御一行様の護衛として働いていたダルドワーズとダダールは遅い夏休みと特別休暇が与えられ、代わりにカリソンは夏休み明けで王都に戻った。部隊長の代理業務が待っているとぼやきながら。
「いいね!何を持ってったら良いかな?」
小さな村だけに、領主も村人皆と親しいご近所付き合いをしている。夏至や冬至の祝宴はコメルシー家の主催だけれど普段のホームパーティはお酒や料理を1品持ち寄るのが基本だ。女性と子供が多い今回は甘いものが良いだろうか。
「この前作ったアメユはどうだ?」
「あ、いいかも」
スュトラッチ家の書物に製法が載っていた麦芽糖に体を温める効果がある薬草を加えた水飴を湯で溶いた“あめ湯”は冷えた体を温め長雨続きで沈んだ気分を上げてくれると家人一同に評判だ。本格的な夏には“ひやしあめ”もどきにしよう。
「素朴な甘さがおいしいね、あれ」
「暑くなったら水で冷やして飲めば、夏バテ防止になります。あ、部隊用にも作ろうか?」
「それは有り難いな。皆、喜ぶ」
2人の兄と当たり障りない会話をしながら、マドレーヌは頭の隅で考えていた。
食事も運動も制限はないし、ずっと家に篭っていても雨の合間に外に出ていても、村の中なら供も連れずにふらふらしても咎められる事はない。ならば、この過保護の理由は何か?2人の眼差しに籠る漠然とした恐怖の理由は何か?幾ら考えても答えは出ない。
「ねえ?」
「うん?」
「どうした?」
「……シャツ、もう少しで出来るの。暑くなったらね、良かったら着てくれる?」




