フュルギエ50歳、夏。〜王都に雨が降る〜
「お聞きになって?あの噂」
「ええ。最高級のダイヤモンドをねだっておいて、すぐに飽きたと捨ててしまったとか」
「豪華なドレスも欲しいとデザイナーを呼びつけ無理に作らせたのだとか。金糸銀糸をふんだんに使った、それはそれは見事なお品だったそうね」
「それも、袖を通さずに捨て置いたのでしょう?」
好き勝手に振る舞い大濫費させる我儘ぶりを噂で聞いた女たちは眉を顰めて。
「おとなしそうに見えて、遣り手らしいな」
「そういう女の方が、あっちの方は激しいと聞くぞ」
「相手を問わずらしい。一度お相手して貰ったらどうだ?」
毎夜違う男と枕を共にしているという噂を聞きつけた男たちは下卑た笑い混じりに。
其処ここから聞こえよがしな小声で囁かれる醜聞に、周囲の人々も徐々に同調していく。同調しないまでも、ニヤニヤと嗤う者、目に侮蔑の念を宿す者、反応は様々だが、相手の言い分はおろか真実かどうかの確認も為されないままに、噂が事実にすり替わっていく。
「今日は、雨の話をしましょう」
建国神話。
世界をお創りになられた始まりの女神が暫しのお眠りに就き、再び目を覚ましてみると、人の心は邪な存在に囚われていた。女神が嘆き落とされた涙は神龍を呼び寄せ、龍はその聖なる火で地上を焼き尽くした。
聖なる火は善き者悪しき者を問わず襲いかかったが、善なる者達には天から慈雨が降り注ぎ、極暑と乾きの中で悪しき者と戦っていた人々を癒した。反対に悪しき者には非情の雨が降り注ぎ、悪に染まった大地ごと全てを流し、後に残った肥沃な土地を善なる者に恵まれた。
「慈雨か非情の雨か、その雨が降る中で推し量るのは困難でしょう。ですが、見分けるすべはあります。恵みの雨は、与えるものを祝福し、受け取るものを祝福する、二重の祝福をもたらす雨なのです」
教会に取り込むべき偶像としてではなく、身内の情に突き動かされて。王都に帰り改めて姪の身の回りで起きたことを調べてみれば、彼女はまるで雨のようだった。
善き感情を向けた者達には幸いを、悪き感情を向けた者達には破滅を、その身にもたらす天の裁き。
ぽつりぽつり降り始めた雨は、いつの間にか本降りになっていた。




