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傾国の悪女

「何を、仰って…」

「ハッキリ言わなきゃわからないのか?!」


 声変わりしたての少年が張り上げた大声に、着飾った人々が談笑を止めた。衆人環視の中、少年は眉根をきゅっと寄せる少女をギロリと睨みつけ、ビシリと人差し指を向ける。


「俺はなァ!あんな悪女が友人だっていうお前と夫婦になるだなんてまっぴらだ!」


「あ、悪女などと…」

「あの所業が悪女でなくてなんだと言う!」


 大声に怯えて震えながらも口を開く少女に更なる怒声を浴びせ、その悪女の所業を声高に訴えていく。



 曰く。

 女のくせにでしゃばりで。

 男を立てることもせず。

 愛人の子という劣った血筋の分際で。

 正統な後継に取り入り高価な宝石やドレスをねだる。

 用意された宝石やドレスも「要らない」と突き返し。

 我が物顔で家を牛耳り。

 咎のない使用人を我儘で次々に解雇。

 常に男を周囲に侍らせ。

 誰彼構わず寝所に潜り込み。

 浮浪者が如き卑しき男にも色目を使い。

 荒くれ者を雇って気に入らない家に嫌がらせをする。



 まだ日も高い夏の午後。否応なしに聴かされる悪業の数々に周囲の少年少女の顔色が悪くなるのも構わず少年は続ける。それを真正面から受ける少女は青を通り越して真白になって、肩を小刻みに震わせながらも少年をまっすぐ見据えて口を開いた。


「お申し出の内容、よくよく承りました。貴方様におかれましては、輝かしい未来の訪れますこと、心よりお祈りいたします」


 その膝折礼(カーテシー)は、厳しいマナー講師そっくりの、とても美しいものだった。


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