茅花流しと、風薫る「夏の夜の悪夢」と
「分かったよ」
灰皿に煙草を押し付け、俺は女を見下ろす。
「四角い空」から静かに降り注ぐ月の光は、俺の靴に「当たった」辺りから概ね45度に屈折し、偶然にも女を照らす。
「照らす」というよりも、光が地面を這いつくばり、そこに踞る女を浮かび上がらせる。
そんな表現が妥当だな。
「風俗もAVも嫌って事でOK?」
女は激しく頭を縦に振る。
「じゃあキャバは?」
今度は頭を横に振り続ける。
・・・正直、意味が分からない。
風俗、AVは確かに嫌だろうが、キャバ嬢ならば、今の「にわかホステス」とそう差がない筈なのだが。
「じゃあ、どうしたいのかな?」
女の言い分はこうだ。
「にわかホステス」のアルバイトで多少余裕が出来た所に、ストレス解消のつもりだったホストクラブで借金を背負ってしまった。
まあ、ありふれた話だ。
さらに、週末のアルバイト先の場末のスナックに、兎に角、毎回迫ってくる中年の男がいた。
あまりにしつこいので、一度ピシャリと断りを入れたのが、その男は取引先の重役であり、受付嬢の自分を見知っていたそうだ。
「俺と寝ないなら、会社に夜のアルバイトの事を話す。」
始めは無視していたが、男の妄言、虚言はエスカレートして行った。
「○○ちゃんは、夜は○○って言うソープで○○って言う源氏名で働いてるんだよね?」
・・・勿論そんな事はない。
が、例え虚言であったとしても、「副業先」で「あの男」と出会い、弱みを捕まれた事。
現実問題として、「少なくはない借金」がある事。
今の職場でコツコツ返そうとしても、「アイツ」に「必ず」ある事ない事、尾ひれを付けられ、回りに広められる。
「生理的に無理な男」に「囲われる」事を受け入れた場合、少なくとも借金からは逃れられる事。
そうなった場合、どちらも親や兄弟姉妹、親戚や友人、知人からはどう思われるかは、まあ自明の理だ。
・・・どっちも嫌だ‼️
とまあ、簡略的に事の顛末は、こんなつまらない話だ。
「何でも嫌だ嫌だで世の中渡って行ける訳がない。」
高校生でも分かる話だ。
それに残念ながら、目の前の女は、俺に取っては「商品」でしかない。
俺が提案した方法はシンプルに4択。
「そいつを殺す。」
「あんたが死ぬ。」
「全部受け入れて、どんな事にも耐えながら、地獄を見ながら生きて行く。」
「他人に生まれ変わる。」
さあ、どれがいい?
新しい煙草に火を付けながら、女の返答を待つ。
煙草の煙を逃がす為に、半分弱開けておいた窓から風が吹き抜ける。
もうすぐ夏の盛りだ。
立夏って奴だな。
「風薫る」
「茅花流し」
そんな風流や季語には一番縁がない状況だ。
「太秦は竹ばかりなり夏の月」
拝啓、芭蕉先生。
「足下は愚者ばかりなり夏の月」
敬具。




