ハーフ&ハーフ
何一つ予想に反しない答えだった。
女が選んだ答えは「他人に生まれ変わる」事。
幸い彼女は田舎から上京して数年。
実家や、地元の友人や知人とは縁が薄い。
そして、俺が彼女を「紹介」された時に確認した通り、彼女はクレジットカードを所有していない、「現金派」である事が今回は幸いだった。
更に、今後はポイントカード等も処分させる。
マイレージカードは勿論、とにかく過去の生活と関連のある物は全て完全に切り離す。
家族など、どうしても連絡したい相手には・・・
(本当は、それすらないにこした事はないのだが)
匿名のEメールアカウントを作り、プリペイド電話を利用させる。
そして、今から数週間、「全て」の人間に話す言葉を「嘘」。「嘘」。「嘘」。で塗りつぶす事。
少しずつ嘘を混ぜながら、最終的に全ての今後の自分を「グレー」か「黒」に混ぜ合わせる。
それも、出来るだけグチャグチャにだ。
「鬱」や「虚言癖」に陥ったと、回りが思ってくれたのならばしめた物。
そうして実際に失踪する前に、少しずつ、確実に、勤務先の会社にすら、嘘の情報を与える。
「父親が認知症を患いまして」
「介護が必要なんです。」
公共サービスに関しては、「修正する」という名目で、名前や社会保障番号を変更する。
更に、架空の郵便受取用の住所を作り、住所をそこに変更させる。
「出来るかな?」
「今直ぐには無理だけど、一月、二月後には、完全に他人になれるけど?」
俺の問いに女は頷く。
「準備が出来るまで、・・・その後も何かあれば、ここに電話したらいい」
「有り難うございます‼️」
女はしゃくりあげながら、何度も俺を拝み倒さんばかりに頭を下げる。
およそ三ヶ月後、彼女は「失踪」し、「身元不明人」として処理された。
「彼女」の新しい住所に生活?
簡単だ。
俺が「ストック」している「戸籍」に、彼女の「性別」と「年齢」に合致した物を落とし込めばいいだけの話。
そう複雑でも、難しくもない。
「彼女」はこれからどうなるのか?
さして興味はない。
まあ、「自由」だな。
興味はないとは言ったが、そこはビジネス。
彼女はどうにかその後、事務職の仕事を見つけた。
給料は地方にしてはそこそこだと言う事。
その中から、毎月3万円を俺に支払う事。
・・・少なすぎる?
月に3万、年間36万。
20年なら720万。
彼女はまだ20代だ。
「飛んだ」なら「飛んだ」で、それ相応の報いを受けて貰う。
「結婚」?
好きにしたらいい。
毎月決まった分の支払をしてくれるなら、俺から干渉する事は一切ない。
こんな「商品」が何人いるのか?
「ご想像にお任せします。」
「信じるも信じないも、貴方次第です。」
そんな感じかな。
そもそも、「これ」は只の副業に過ぎない。
それに、「俺自身」は到って真っ当な社会人だ。
最近、「小説家」って奴の裾野が広がったのか、レベルが下がったのか、ジャンルが増えたのかは分からないが・・・そんな業界の端っこより、やや真ん中寄りに「俺」はいる。
「ベストセラー」は到底無理だが、潜入ルポライターとしてはいい稼ぎはしている部類だろう。
「そういう雑誌」や、「ちょっとヤバめな世界に触れたい、「所謂」マイルドヤンキー」なんかもいいカモになる。
多分全てが複合しているんだろう。
それが「時代」だと言ってしまえば、それまでだが。
一仕事を終えた「俺」は事務所の入っているビルの屋上に上がり、空を見上げる。
「ふう・・」
今夜は半月。
「50&50」
奇妙なバランスだ。
見上げた空は、まるで半月が割ってしまったかの様に、ある境目で「明るい」と「暗い」にクッキリと分かれていた。
ただ、間違いなく確実に、「現実的に」その境界線は存在する。
その「隙間」で生きている「人間」も存在する。
・・・俺の様にか?
「ハーフ&ハーフ 」
ピッツァなら、そう言われるだろう。
丸い月が半分に分かれている。
遠目から見る俺には、「それ」は寸分の狂いもなく見える。
幾ら目を凝らしたとしても、それ以外には見えない。
「・・けど、何にせよ隙間はある。」
そう呟く。
「人は、自分が見たいと欲する現実しか見ない」
「裏側」が存在しないのなら、届かないのなら、それでも必ず「隙間」や「境界線」は存在していて、「そこ」に蠢く生き物も必ず存在するのだから。
月が嗤う。
月を嗤う。
半分こだ。




