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四角い空を見上げて  作者: くまのびと
「四角い空」から見る夢と現実と、過去と今。お伽噺と「その先」について。
8/18

月の光と現実

「借金で死ぬ?まあご自由に 」


煙草に火を付け、足元に踞る女を一瞥する。

長く伸ばした黒髪を後ろで纏め、眼鏡をかけた姿は、一見すれば普通の女だ。


顔立ちはまずまず。

スタイルもまあ悪くはない。

ごくごく真面目な、「そこそこの美人」。


昼間の仕事じゃ贅沢は出来ないから、夜は場末のスナックで金曜日、土曜日限定でアルバイトで出勤している。

平たく言えば「ダブルワーク」って奴だ。


生活の足しになればいい。

そう思って始めた「にわかホステス」の時給が思いの外良く、気晴らしのつもりで足を踏み入れたホストクラブにハマり、気が付いたら安くはない借金を背負っていた。


まあ、良くある話だ。

良くあるパターン過ぎて、女の次に来る言葉は、俺には分かり過ぎる位に分かり過ぎていた。


「ホストにハマって、借金する様な馬鹿は・・・」

そうしゃくりあげながら、捲し立てる女の次の言葉。


「死ななきゃ治らない」


俺の言葉に、ハッとした様子で女は顔を上げる。

やれやれ。

お前の人生の終わり。

お前の日常を壊した失敗と、それがもたらす「今」の状況は、お前が思う程に特殊じゃない。


俺からすれば「ステレオタイプ」だ。

よくある壊れたオモチャの1つにしか見えないね。


「で、どーする?」

「風俗に行くか、AVか。」


女は「わあっ・・・」と声にならない叫びを上げ、再び踞る。


俺は煙草を灰皿に押し付け、優しく声をかける。

「とりあえず親御さんとか兄弟・・・頼れる親戚に肩代わりをお願いしたらどうかな?」


彼女は涙でクシャクシャになった顔を上げ、激しく頭を震る。


・・・・何か事情があるのだろう。

そりゃそうだ。

他に行く当てがない、藁にもすがりたい。

そんな人間しかここには来ない。

そもそも、「俺」に辿り着けた事自体がまともじゃない。


深夜一時。

事務所の窓を開き、煙草に火を着ける。

四角い空の上には、優しい月と、その回りで煌めく星が一生懸命光っている。


四角い窓の下には、芋虫の様に丸まりながら嗚咽し続けている女がいる。

一生懸命に「誰か」に助けを求めている。

例えそれが自業自得だったとしてもだ。


どちらかが正しくて、どちらかが間違っている訳でもない。


勿論、その間にいる「俺」が正しい訳でも、間違っている訳でもない。


「人は見たいと思う現実しか見ない」


吐き出した息と煙がユラユラと舞い上がる。

優しい月の光の下に響く後悔の嗚咽。


残酷なだけに、どちらも間違ってない。

そう思う。


俺が彼女みたいな人生を歩みたいかと問われれば、断固として「否」だが。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました。 この『四角い空を見上げて』は、オムニバスのような作品集になるのでしょうか。 今回はドラマでした。 ホステスさんがホストさんにはまるというのは、本当なのですね。ニュースで見…
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