月の光と現実
「借金で死ぬ?まあご自由に 」
煙草に火を付け、足元に踞る女を一瞥する。
長く伸ばした黒髪を後ろで纏め、眼鏡をかけた姿は、一見すれば普通の女だ。
顔立ちはまずまず。
スタイルもまあ悪くはない。
ごくごく真面目な、「そこそこの美人」。
昼間の仕事じゃ贅沢は出来ないから、夜は場末のスナックで金曜日、土曜日限定でアルバイトで出勤している。
平たく言えば「ダブルワーク」って奴だ。
生活の足しになればいい。
そう思って始めた「にわかホステス」の時給が思いの外良く、気晴らしのつもりで足を踏み入れたホストクラブにハマり、気が付いたら安くはない借金を背負っていた。
まあ、良くある話だ。
良くあるパターン過ぎて、女の次に来る言葉は、俺には分かり過ぎる位に分かり過ぎていた。
「ホストにハマって、借金する様な馬鹿は・・・」
そうしゃくりあげながら、捲し立てる女の次の言葉。
「死ななきゃ治らない」
俺の言葉に、ハッとした様子で女は顔を上げる。
やれやれ。
お前の人生の終わり。
お前の日常を壊した失敗と、それがもたらす「今」の状況は、お前が思う程に特殊じゃない。
俺からすれば「ステレオタイプ」だ。
よくある壊れたオモチャの1つにしか見えないね。
「で、どーする?」
「風俗に行くか、AVか。」
女は「わあっ・・・」と声にならない叫びを上げ、再び踞る。
俺は煙草を灰皿に押し付け、優しく声をかける。
「とりあえず親御さんとか兄弟・・・頼れる親戚に肩代わりをお願いしたらどうかな?」
彼女は涙でクシャクシャになった顔を上げ、激しく頭を震る。
・・・・何か事情があるのだろう。
そりゃそうだ。
他に行く当てがない、藁にもすがりたい。
そんな人間しかここには来ない。
そもそも、「俺」に辿り着けた事自体がまともじゃない。
深夜一時。
事務所の窓を開き、煙草に火を着ける。
四角い空の上には、優しい月と、その回りで煌めく星が一生懸命光っている。
四角い窓の下には、芋虫の様に丸まりながら嗚咽し続けている女がいる。
一生懸命に「誰か」に助けを求めている。
例えそれが自業自得だったとしてもだ。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っている訳でもない。
勿論、その間にいる「俺」が正しい訳でも、間違っている訳でもない。
「人は見たいと思う現実しか見ない」
吐き出した息と煙がユラユラと舞い上がる。
優しい月の光の下に響く後悔の嗚咽。
残酷なだけに、どちらも間違ってない。
そう思う。
俺が彼女みたいな人生を歩みたいかと問われれば、断固として「否」だが。




