4話 月が嗤う
やれやれ。
今日はランチタイムもディナータイムも、悲しいかな「時給」の僕にはとても悲しく、バイト先の店舗には間違いなく「素晴らしく」目の回る様な忙しさだった。
恐らく、いや、間違いなく確実に、誰に憚る事もなく、今日のアルバイト王は「僕」だと認定できる。
誰も渡してくれないなら、自ら「バイト王」と書いたベルトを腰に巻いてもいい。
何ならついでに、リングガールに両手に持たせたプラカードには、A4サイズの紙に縦書きでこれでもか、という位に高らかに「成果主義」と書いて、店内を闊歩したい位だ。
救いは賄いが兎に角美味しい事。
元々、夜の賄いは御飯に味噌汁(その日によって、赤出汁や清し仕立てだったりする)はおかわり自由な上に、その日に余った切れ端等を使った料理にありつける。
今日は幸運な事に・・・
(店にとっては不幸だが)
当日キャンセルになった食材で料理長が作ってくれた、「黒毛和牛の治部煮」は絶品だった。
裏口から出た僕は空を見上げる。
ピンと張りつめた、それに良く晴れた(今は夜なのだけれど)1月の空には、凛とした月が良く似合う。
僕は煙草に火を付けた。
高校生が煙草?
今時ありふれた、ごくごくありふれた行為だろう。
僕が吐き出した息と煙はユラユラと中を舞う。
それは直ぐに目に見えて消えてしまうが、間違いなく空高く舞い上がって行く。
もしかしたら、明日の朝には「それ」は空に届いているのかもしれない。
「明日は晴れかな」
不意に思う。
僕が吐き出した煙が空に届き、雲一つない空に少しの彩りを加えてくれたらなあ。
僕が吐き出した煙と息が空高く舞い上がって雲になり、どこまでも続く真っ青なキャンパスの彩りになる。
でもそれは、自分の意思では何処へも行く事は出来ない。全ては大空を流れる風に流され、そして何時かは消え失せていく。
不意に思った。
まるで「人の営みの様だ」と。
僕は煙草を地に落として踏みつける。
今日も綺麗に月が笑う。いや、「嗤って」いるのかなあ。
また明日も「繰り返す正しい日常」が待っている。




