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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第21話 『中隊戦闘』

「ボス、奴らがやってくるようです」

「ふんっ、吸血鬼共の言った通りとはな。全くもって忌々しい」

ボス、と呼ばれた大柄のオークことキングオークは吐き捨てるように言った。

今は、オークたちを使って逃げ隠れしている魔導士を探しているところだった。

全く、不愉快な話だ。

魔導に適性のないオークでは、魔導士どもの隠蔽魔法を簡単には破れず、こうして地道に探すしかない。

だが、そもそもの話、サッサと魔導士どもを始末すれば早い話だったのだ。

それなのに、急に吸血鬼どもが話に絡んできて、『お前たちを囮に使って魔導士どもを更におびき寄せる。その為にその魔導士どもは殺さず遊んでろ』と言う。

そんな指示に従っていたから逃がすような羽目になるのだ。

全くもって腹立たしい事である。我々は吸血鬼の道具ではないというのに。

だが、我々よりも高位に位置する連中に歯向かえばどうなるか。故にここは、従うしかない。

さて、他の魔導士どもが駆けつけてきたというのであればもう問題なかろう。この鬱憤は、奴らをぶち殺す事によって晴らしてくれよう。

「お前らぁ! サッサと魔導士ウィザードどもを捕まえろ! そして、奴らを確実にブチ殺せ!」

『オオーッ!』

オークたちが雄叫びをあげる。

さあ、殺し合いの始まりだ。血湧き肉躍る虐殺の時間だ。キングオークは獰猛に牙をむいて笑みを浮かべる。




「いい? 前衛は片桐と私と御白。中衛はリンと響弥と雨宮さん。後衛は鬼嶋姉妹と静音。この陣形で行くわよ」

「ちょっと質問いいか?」

「何よ?」

止まって作戦立ててる余裕はない。という事で、俺たちは移動しながら作戦を練っていた。

杏果がリーダーを担っている理由は、この中で強くて頭が回って、はっきりと物が言える。そういった指揮能力を見ての事だった。

「俺よりもリンとか莉緒の方が前衛に向いてるんじゃないか?」

「その通りね」

「じゃあ変えたほうが……」

「何よ、前衛は怖いっていうの?」

「いや、そうじゃなくて」

だって今は、いち早く助けるのが先決なんだろう? だったら、リンか莉緒のほうが俺よりもずっと早く確実に敵を倒せる。その分窮地から脱するのが容易になるはずなのだ。

「ダメよ。あんたは前衛」

「理由は?」

「じゃああんた後衛で支援とか魔術でバンバン敵を攻撃とか、できる」

「無理」

「じゃああんたができるところは前衛しかないでしょう」

「そりゃそうだな」

リンの武器は長槍だ。加えて風の刃を生み出して攻撃もできる。莉緒にしたってあの炎弾の雨は後衛の役割として十分にやってくれる。

それに対して、俺はどうだ。

後衛どころか中衛すらできないだろう。魔導士になりたての俺は、かろうじて前衛ができるくらいに過ぎない。

だからこの陣形は、杏果が考えた上で最良の策だと言ってもいいのではないだろうか。

「まあ、あんたがもう少しやれればもちろん作戦の幅は広げられたんだけど」

「ぐっ……」

そもそも、考えてみれば前衛の火力不足の心配なんて、杏果がいるだけで解決してしまう。彼女の一撃は、素早く重く、破壊力がある。何の問題もない。

「そろそろ着くわよ。準備はいい?」

「おう」

俺は首肯する。他の仲間も同様にこくりと頷いて返事をした。

両者は、間も無くぶつかり合う。




「いっ⁉︎」

その場に到着して、俺はまず最初に呻いた。

何だこの数は。100体超えるとは聞いていたけど、こうしてみてみると尋常じゃない。200体も悠々と超えるだろう。

「すんごい数っすねー……。ちょっとキモいっす」

「なまじガタイが良い分余計にだね……」

莉緒とリンが、後ろでウンザリしたような声を上げた。

「まずは今隠れているという2年生のチームを探すわよ。この中で索敵ができるのは?」

「自分はできるっすよ」

「私もいけるわ」

返事をしたのは莉緒と佳奈恵だ。

「じゃあお願い」

「了解っす」

「まかせて」

莉緒がしゃがみ込み、両手を地面につける。そして彼女が目を閉じた瞬間、黒い触手のような模様が地面を這う。

佳奈恵は手を前にかざして、何かをボソボソと唱え始める。すると、手に魔力で形成された球体が出現し、それから魔力の波動が発せられる。

「これで索敵できてんの?」

「すぐとはいかないわ。莉緒の方は多分敵に察知されない代わりに効率は悪いし、佳奈恵の方は効率はいいけど、波動を察知した敵が襲ってくるから……ほら、言ってるそばから」

視線で前方を示すと、何十体というオークが襲いかかってくる。

「陣形は崩さないで。2年生のチームが見つかるまで、2人を守り抜くわよ!」

「了解!」

全員が敵に対して武器を構え、それぞれ攻撃を始める。

「はぁっ!」

気合一閃。俺は魔力棒を振り抜く。だが、オーク相手でも倒すには至らず、一時的に動きを封じるのみだ。

そして、それで充分だ。

後ろからリンの長槍が閃いて、オークを串刺しにする。

「ナイス、助かったぜリン」

「ううん。それよりも、やっぱりちょっと丈夫だね、オークっていうのは」

リンの方をよく見ると、手にした長槍が風に包まれていた。

次に、倒れたオークに視線を戻す。すると、長槍で刺された傷が、まるで内側からグチャグチャにかき混ぜられたみたいになっているのがわかった。

グロテスクだなおい。

そう思ったのもつかの間。オークはすぐに黒い塵となって風に消えていった。

「将真くん、集中しなきゃダメだよ」

「わかってるよ」

陣形は崩すなと言っていたが、俺たちはちょうど前と後ろだ。2人で連携する程度なら構わないだろう。

一瞬、杏果がこちらに視線を向けて、俺に向かって叫んだ。

「脳天よ! 脳天を力一杯叩けばあんたでも殺れるわ!」

「サンキュ! オラァ!」

有難いアドバイスを頂いた俺は、渾身の力で向かってきたオークの頭を殴る。

ゴシャッと嫌な音を残しながら、オークが倒れていく。無論、魔力棒は粉々に砕け散ったが。

そして、ドシンと音を立てて倒れたオークは、少しの間ピクピクと動いて、すぐに塵となって消えた。

「おぉ、本当だ」

それを確認した俺は、感嘆の声を上げ、再び魔力棒を精製してギュッと握り締めた。

「よっしゃ、これなら……」

「__見つけたっすよ!」

「__見つけたわ!」

そのタイミングで、まさかの2人同時に声を上げる。

「2人ともありがとう。それで、どのあたりにいた?」

「……とりあえず、こいつらは蹴散らしていっほうがいいっす」

「うん。私も同感」

莉緒の意見に、佳奈恵が同意する。杏果もまた首肯して、俺たちに向き直る。

「今聞いた通りよ。2人が指示する方向へ向かうに当たって、オーク共を蹴散らして行くわ。いいわね?」

「うん。問題ないよ」

「早く行きましょう」

リンと美緒が賛同の意を示す。残りのメンバーも同意見だ。

「じゃあ、陣形は崩さず行くわよ!」

『了解っ!』

俺たちは陣形を保ちながら、オークの群れを蹴散らして進んでいった。




「ボス……!」

「何だ慌てて」

「魔導士共が、こちらに押し寄せてきます! 我々では太刀打ちできません!」

「何だと⁉︎」

キングオークは驚愕の声を上げる。確かにオークは低位魔族だが、物理攻撃が効きにくい。ましてこの数だ。そう簡単に前進はできまいと思っていた。

だが、今の口ぶりからしてその考えは甘かったという事を知る。

「隠れた魔導士は一先ず置いておけ! 全員、向かってくる魔導士共を迎え撃つのが先決だ! 俺が出るまで、時間を稼げ!」

『オォーッ!』

オークの群れが雄叫びをあげる。

キングオークは立ち上がり、地響きを立てて歩き出す。

オークの群れは、それを囲うように波となって魔導士たちを迎え撃ちにかかった。




「……助かったのか?」

2年生のチームの一人が呟く。よくわからないが、突然オーク達がその場を離れていったかと思うと雄叫びが聞こえて、大群が大移動を始めたのだ。しかも、キングオークまで動き出した。

それだけではない。あのキングオークの叫び声の中で聞き取れた単語『魔導士』。

つまり、誰かが自分たちを助けに来てくれたのだ。だが、あの大群はつまり、その魔導士達を殺しに行ったのだろう。

「大丈夫かしら……」

同じ事を考えていたのだろう。チームメイトの一人がポツリと呟く。

「すまない、無事でいてくれよ……」

迷惑をかけたことに罪悪感を覚えるも、今の自分たちではどうにもできない。せめて、彼らが生き残る事を祈るしかなかった。




「くっそ、一気に数が増えたぞ!」

「流石にこの数は抑えきれねぇ、どうすんだ柊!」

「くっ、今考えてるところよ!」

初めのうちはまだ前進できていたのだが、暫くして押し寄せるオークの数が増えてきたのだ。既にかなりの数を倒しているはずだが、この分だと200体どころか300体とか400体、下手をすれば500体を超えるやもしれない。

その時、口を開いたのは美緒だった。

「柊、この距離なら無線連絡できない?」

「……無理ではないと思うけど」

「じゃあ、2年生の人達に連絡して。『今すぐ自分の身を守れ』って。みんなも、ちょっと自分の身は守って」

「……まさか美緒、あれやるんすか?」

その口ぶりからすると、どうやら莉緒はこれから彼女が何をしようとしているのかがわかるらしい。

「何をする気?」

杏果がオークを迎撃しながら問いかける。美緒は、淡々と答えた。

「この数をまともに相手するのは面倒。だから一気に消し飛ばす」

「……できるの?」

「問題ない」

「……わかったわ。このままでは事態が進展しないし。でも、あんまり危険なことはしないこと。いいわね」

「それは承諾しかねる」

「……」

その答えに思わず杏果は顔を顰めるが、事態の進展を優先したようで、端末を開いて通信をする。

「こちら、高等部1年生の柊杏果です。聞こえますか?」

『……ああ、聞こえている』

ウインドウの向こうから聞こえてきたのは、弱々しい声だった。だが、どうやら生きているようだ。俺は安堵で息をついた。それは皆同じようで、しかし気を抜いている余裕はない。

すぐに俺たちはオークに向き直る。

『……すまない、後輩に迷惑をかけることになるとはな』

「謝罪なら後で聞くので、今はとりあえず、全力で自身の身を守ってください」

『どういう意味だ?』

「私にもよくわからないんですけど、お願いします」

『わかった』

2年生の返事を聞いて、杏果は通信を切った。そして、美緒の方を向く。

「連絡したわよ」

「そう。それじゃあ早速」

美緒が呟く。その瞬間、美緒から妙な魔力の波動が放たれる。

「これは……」

「美緒さんの神技⁉︎」

「正確には『神話憑依』っすけど、それよりも、ホントにちゃんと身を守らないと巻き添え食らうっすよ!」

莉緒が珍しく慌てたようにまくし立てる。だが、美緒はそれを待たなかった。

「『天穿つ無数の青薔薇』__凍結氷獄」

周りの空気が凍りつく。

あたりに霜が降り始める。

そして__


「__“コキュートス”」


神技が、放たれた。

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