第19話 『買い物』
昼食を食べ終えた俺たちは、のんびりと東区に向かった。
「……相変わらず凄いな。『表世界』よりもだいぶ発達してるんじゃないか?」
「そりゃ魔導が導入されてるから当たり前っすよ」
「なるほどな」
この前も見たが、このエリアは工業系に富んでいるようだ。
電気発電所とか工場とかが多く存在する。更には採掘場的なものまでも。
だが、今回の目的は観光とかではもちろんない。
魔導器を買いに来たのだ。
「で、どこで買えるんだ?」
「よく見ると、その辺に売り場みたいなのが点々とあるでしょ?」
「……ああ。あるな」
「そこがこの東区で唯一売り買いができるところだから」
「詳しいんだな。よく来るのか?」
「うん。防具は結構使える物が多いんだけど、それだけにどうしても消耗しやすくて。肉体強化だけじゃ間に合わない時もあるし、そうやって考えると防具は必要なんだよ。……まあ、魔法で防具が作れればいいんだけど、防具って器用じゃないとなかなか作れないんだよね」
「そうなのか」
まあ、装備し続けながら戦うのは難しいということなのだろう。
「リンはどこで買ったんだ?」
「あ、一緒のを買うの?」
「うん。何かそれ使えそうだし」
「確かにそれは結構使い勝手いいっすよ。魔力を通しやすいから強化や魔術も使いやすくなるし、魔力で肉体を傷つけないように……まあ電気で言えば帯電みたいなもんすかね」
「つまりゴム手袋みたいなもんか」
そうやって考えるとスッゲェ弱そう。あくまで例えだけれども。
売り場に足を向ける俺たち。だが、俺はふとある事に気がついた。
「そういや、それいくらなんだ?」
「「あっ」」
その問いに、2人とも忘れていたと言うように声を上げた。
「うーん……。そうだね、今日はボクが払うよ」
「いや、それは悪いよ」
「いいのいいの。仲間なんだから困ったときはお互い様、だよ?」
「お、おう……」
そんな風に可愛らしく言い聞かされてしまっては、いうことを聞くしかない。
すると今度は莉緒の方が、腕時計のような端末を示しながら、
「ちょっと学生証の画面開いてくださいっす」
「何で?」
「いいから」
「……了解」
俺は釈然としないながらも、端末からウインドウを開いて、学生証の画面を開いた。
「名前の下あたりをみてくださいっす」
言われた通り見てみると、そこには『1000000』という数字が並んでいた。
「これは?」
「ちょっと見ててくださいっす」
「ん……お?」
次の瞬間、その数字が『1010000』という数字に変わった。
「これはいわゆる電子マネーっす。自分たちは現金ではなく主にこっちを使って生活します」
「ふーん……って、マジで⁉︎」
じゃあ何か? 俺今1010000円所持してるっていうことか? どっから出てきたよそんな金。
「どうしたんすか?」
「いや、何か結構初めから金があったんだけど。あと、何で今数字増えた」
「あ、増えた分は今自分が受け渡した分っす。任務の報酬は自分が預かってましたからね。すっかり忘れてたっすよ」
「その代金はもしかしたら、学園長の粋な計らいじゃないかな?」
「いや、こんな大金あり得るのか?」
「だって、家族じゃない?」
「……そういうもんか」
まあ、姉貴が入学祝いとしてくれたというならありそうな話だ。そもそもこの端末も姉貴が送りつけてきたアイテムだしな。
それにしても金額おかしい気がするけどな?
まあ、そういう事ならありがたくいただいておこう。だが、それならなおさらリンに買わせるわけにはいかない。
「やっぱり、自分で買うよ。高いって言っても、この所持金がスッカラカンになるような代金じゃないだろ?」
「まあ、将真くんが買おうとしているものはそんなに高い値段しないけど……」
「やたら強い武器だとその程度じゃむしろ足んないっすよ」
「マジか」
「でも、やっぱりボクが買うよ。こんなことボクが言うのもおかしいかもしれないけど、入学祝いみたいなものだと思って」
「でも……」
「そんなこと言ったら、ボクの方がまだ少し持ってるくらいだしね」
一体いくら持ってんだお前、と言う疑問が浮かんですぐに消えた。任務クリアの報酬でもお金が手に入ることはついさっきわかったし、よう考えたら序列でもお金がもらえるんだったな。
それを積み重ねているのだから、俺より持っていても不思議ではないのかもしれない。
「おじさん、いますか?」
売り場の方へリンが声をかける。すると、1人の男が顔を上げてこちらを見る。仏頂面というか、無表情な人だ。だが、おじさんというほど老けてはない気がするのだが。
「何だ、時雨か。何の用だ?」
「前に貰った小手のサイズ大きめのってないですか?」
「あるにはあるが、何故だ?」
「えっと……」
リンは、売り場から少し離れたところで立っている俺を手招きで呼ぶ。
「この人の武装に必要なんです」
「何だ、彼氏でもできたのか」
「か……ち、違います! そういうのじゃないありませんっ」
「何だ、違うのか。まあどうでもいい。その小手だな、ちょっと待ってろ」
男は、店の奥に入っていった。
「……親戚か何かか?」
「ううん。あの人はAランクの魔導士で、一時期学校で教師もしてた人だよ。でも、名前は教えてもらってないなー」
「ああ、自分知ってるっすよあの人」
「えっ」
リンが驚きの声を上げる。莉緒はウインドウを開きながら、先ほどの男についての詳細を見せながら説明する。
「飛塚鉄心。かつての学園序列は卒業前時点で4位。リンさんも言った通り、かつては教師をしてたんす。しかも、その時の生徒が学園長だったらしいっすよ」
「ってことは、姉貴の先生だったって事か?」
「そうなるっすね。Sランク魔導士になる事もできると言われていたけれど、彼自身が身を引いた……とまあ、自分が知ってるのはこんなもんっす」
「ううん、結構わかったよ。莉緒ちゃんって調べ物とか上手なの?」
「まあ自分の戦闘スタイル上、相手の事を知るというのは大事な事といえばその通りっすからねぇ」
事も無げにいうが、調べるというのは簡単な事ではないだろう。要は個人情報で、しかも本人が話そうとしないとあれば、そもそもの情報量は少ないはずだ。
それをどれくらいの期間かけたのかは知らないが、そこまで詳しく知っているというのはすごい事だと、俺も素直に感心した。
そんな話をしている間に、鉄心が店から出てきた。
「これでいいか?」
「えっと……将真くん、ちょっとつけてみて」
「おう」
手渡された小手に手を通して装着してみる。
うん。丁度いい感じのつけ心地だ。サイズもあっているし悪くない。
「どうかな?」
「うん、大丈夫そうだ」
「そっか。じゃあおじさん、これをお願いします」
「代金は5000だ」
意外と高いな、と思いながらも、職人の手で作られたというのならそんなもんなのかもしれない。
自分よりもだいぶ年上の男の前で、女の子にお金を払わせるという、鉄心に何を言われても不思議ではないこの状況で、彼はあえて無視をした。いや、興味がなかったのかもしれない。
「また今度、武装の手入れなどお願いします」
「なるべく傷つけるなよ。治すのは作るのよりも面倒だ」
低い声で忠告する鉄心に、リンは微笑んで手を振っていた。
その後、莉緒の買い物にも付き合い、俺は色々と魔導具を受け取った。
そして数日間、任務をこなしたり鍛錬をしたりして__気がつけば、2週間が経過していた。
ゴールデンウィークに入ったばかりの早朝。
いつも通り6時に起きて、30分くらいのランニング。そして最近は、いつも通りの鍛錬メニューに新しい事を追加してみた。
「準備はいいっすか?」
「……おう。準備オッケーだ」
言って、俺は魔力棒を中段に構える。
初めは嫌そうだった莉緒だったが、何度か頼んだら仕方がないと頼まれてくれたのだ。ちなみに、朝眠いのが嫌だから渋ったらしい。
莉緒はその返事を聞いた直後、パチンと指を鳴らす。そして彼女の背後に幾つもの魔法陣が現れる。そこから、沢山の炎弾が飛び出してくる。
無論威力は制御してもらっているが、直撃すればまあ無傷では済まないだろう。
それを真っ直ぐに見据え、俺は意識を集中させる。全身に魔力が行き渡るイメージ。瞬間、力が漲ってくる。
地面を蹴って、莉緒に向かって駆け出す。
たった一太刀、莉緒に当てればクリアという条件のこの鍛錬。
だが、このメニューを追加して十日は経ったのに、一度も当てられていないというのが現状だ。
集中力を研ぎ澄ませ、飛んでくる炎弾を紙一重でかわしながら、かわせない一撃は魔力棒で打ち落としていく。
無論、その度に魔力棒は壊れる。だが、わかっている事だ。すぐに精製しなおして、再び同じ動作に入る。
莉緒に近づくにつれて、炎弾は数と速度を増していく。
少しずつ捌ききれなくなってきて、焦りを覚えると同時に集中力が鈍っていく。そして、次の炎弾を弾き飛ばした瞬間、すぐその後ろから現れた炎弾が直撃して、俺は物の見事に吹き飛ばされた。
「うが、いで、あぃでっ! ……ぐぅ」
何度か地面をバウンドして、転がって、引き摺られるように滑ったところでようやく止まった。
「大丈夫?」
近くで見てたリンが少し心配そうに声をかけてくる。俺は、むくりと体を起こす。
「いつつ……まあ、なんとか平気だ。痛みはあるけど、擦り傷も打撲もない」
この鍛錬を始めたばかりの時は、やたら擦り傷まみれに打撲もあったくらいだが。
莉緒も俺の方に歩いてきて顎に手を当てる。
「肉体強化の魔法はできるようになってきたみたいっすねー。しかもこの数日の間に動き自体も良くなってる。ホント恐ろしい成長速度っすね」
「そんなに凄いのか?」
「そりゃあもう。そろそろ直接刃を交えるっすか?」
「うーん……いや、まだいいや」
今のままではダメだ。次のステップに行くのは、現在の条件を達成してからでないと。
勢いをつけて起き上がる。
そして、再び魔力棒を精製して、構えを取る。その瞬間、
「うん?」
「あ」
腰につけたタイマーがピピピッと鳴りだした。
「おや、もう時間みたいっすね」
「ちぇー、結局今日も一太刀入れらんなかったな」
「いやぁでも、あと数日もすれば一太刀くらい入れられると思うっすよ? タダでさえ動き良いのに、さらに良くなってるんすから」
「そうかねぇ」
俺はぼやいて、魔力棒を消した。
あと数日と言っても、莉緒は序列4位。そんな簡単にいくものだろうか。
「さて、では学校へ行く準備をするっすかね」
「はぁ……もどかしいな。あと数日と言わずに、すぐにでも勝てるようになりたいんだけどなぁ」
まあ、そう焦る事はないか。どうせ魔導士に成り立てなのだ。時間はまだまだある。
俺たちは部屋に戻り、さっさと準備をして学校に向かった。




