第14話 極楽かもしれない
「魔族様の世界には、温泉はないのですか?」
人間が驚いている。
だから、『様』をつけるのはやめろって。
「ああ、そうだな。温泉とは、いったいどんな物なんだ?」
「温泉を知らないなんて、もったいないですよ!」
「百聞は一見にしかずです。よかったら、温泉に入っていってください。」
オレたちは、ある建物の前に来た。
あっ、あの記号は……!!
建物の看板に、地図に載っていた記号がついている。
あれは、温泉の記号だったのか……。
「昔はもっと、沢山温泉があったのですが、今、残っているのはここだけです。」
「小さいですが、良いお湯ですよ。タオルをお貸しますので、どうぞお入りください。」
タオルを受け取ると、オレとエドは、顔を見合わせた。
案内されて、扉を開けると、人間たちが、裸になってお湯に浸かっている。
「……これ、大丈夫なのか?」
「人間が入っているから、大丈夫じゃないか?」
エドが楽観的なことを言った。
いやいや、人間が大丈夫だからって、魔族も大丈夫とは限らないぞ。
……そういえば、ばあちゃん家に、もっと小さいのがあったな。
「すぅくんも、入っていきなよ」
って、たまに言われたけど、断固拒否していたんだ。
「……エド、お前、先に行けよ。」
「なんだよ、ストラウス。もしかして、怖いのか?」
「なっ!」
図星をさされてしまい、ちょっと動揺した。
「……オレは、慎重なんだよ。」
「ふーん、そうなのか?なんか、人間たち、気持ち良さそうにしてるぞ」
「まあ、確かにな……」
しばらく観察していると、老人が、
「はあ……、極楽、極楽」
と呟いた。
大丈夫なのか!?
天国に連れていかれるのか??
「ストラウス、オレ、先に入る。」
しびれをきらしたエドが、先に行ってしまった。
「おい、待ってくれ、エド――!」
「あんた、見ない顔だねえ。」
「温泉に入る前は、体を洗うんだよ。」
エドが、人間に捕まった。
助けてくれ、という目をオレに向ける。
「なんだ、お連れさんもいるのかい。」
「あんたも、こっちに来て体を洗うんだよ」
断るタイミングを失って、人間の言う通りに体を洗った。
石鹸というものを泡だてて、ゴシゴシこする。
お湯で流すと、なんだか体がサッパリしたみたいだ。
「ここは、露天風呂がオススメだよ。こっちにおいで。」
もう、なるようになれだ。
人間の後を大人しくついていくと、建物の外に、お湯が張ってあった。
「景色を見ながら、お湯につかる。これが、またいいんだよ」
「へーっ。それは、よさそうだな!オレ、入るよ!」
エドが、ザブンと、一気にお湯に浸かった。
「ぷは――」
「生き返る――」
い、生きかえるだと!?
いや、今も死んではいないが。
気持ちよさそうなエドを見て、オレも恐る恐る入ることにした。
まずは、片足から……。
うん、大丈夫そうだ。
安全を確認して、ゆっくりと体を沈めていった。
ぷはぁ――。
なぜか、勝手に言葉がでる。
こ、これは気持ちいいぞ!!
「ストラウス、最高だな。」
「ああ、これは気持ちいいな」
「気に入ったかね?ゆっくりしていきな。」
オレたちを案内してくれた人間は、先に出ていった。
オレたちは、露天風呂と、部屋の中の風呂を、いったり来たりした。
『サウナ』という部屋にも入ってみたけど……、
あそこは、灼熱の地獄だった。
いったい、何がよくて人間は入っているんだ?
だいぶ時間がたった頃。
オレは、帰りの電車が心配になってきた。
「エド、そろそろ出るぞ」
「えっ。もう、出るのか?」
「せっかく来たんだし、まだいいじゃないか。」
「オレたちは観光に来ているんじゃないんだぞ。」
――散々、自分も温泉を堪能しておいて、説得力に欠けるけど……。
嫌がるエドを引っ張って、ようやくオレたちは外に出た。




