↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/20

⑧

 あと少しの小学校生活を平穏無事に終えたかったが、こうなってしまった以上、クラスの女子全員から糾弾されるのは覚悟しなければいけない。暗い気持ちのまま、私は帰り道を歩いていた。

「由梨、学校帰り?」

柔道クラブに向かう、タイちゃんに声を掛けられた。タイちゃんの顔を見た瞬間、私は涙が止まらなくなってしまった。

「どうした?何があった?」

私が何も言えずにいると、

「由梨、家行こう。」

タイちゃんはそう言って、私の腕を引いて、寿司たなべまで連れて行ってくれた。店の前で沙織さんが私たちをみて

「あれ?太一郎、クラブは?由梨ちゃんもどうしたの?」と声を掛けてきた。

「由梨、こんな状態だから様子見る。クラブには風邪引いたから休むって電話しておいて。」

タイちゃんにそう言われ、私が泣いていることに気付いた沙織さんは、

「分かった。由梨ちゃん、落ち着くまでゆっくりしてね。」

そう言って、出迎えてくれた。


 タイちゃんの部屋に入り、私は何があったかを話した。

「もう、嫌だ。私。明日から杏奈ちゃん達に、また、男好きとか、略奪女とか、調子乗ってるとか言われるんだ。」

タイちゃんは黙って私の話を聞いていてくれた。

「確かに、本の話は楽しかったけど、別に水沢君のこと、好きなわけじゃないのに。水沢君も、なんで簡単に私のこと好きになるの?私はただ、趣味の話してただけなのに。」

 私は鼻をすすりながら体育座りで話していた。タイちゃんは心配そうに私を見ながら話し始めた。

「由梨、学校でほとんど男子と話さないんだろ?そういう子が、自分には話してくれるっていうのが、嬉しかったんじゃないのか。自覚してると思うけど。由梨可愛いし。」

 そう言われて、私はついカッとなった。

「私が悪いの?私が可愛いせいなの?私は、見た目で好きになられても全然嬉しくない!」

タイちゃんは悪くないのに、私は声を荒げてしまった。タイちゃんはそんな私に優しく言ってくれた。

「由梨は悪くない。由梨が可愛いのは由梨のせいじゃない。それは間違いないから。お前の見た目で、勝手に判断してくるヤツらが悪い。」

タイちゃんはまっすぐ私の目を見ていた。

「…ごめん。」

「ただ、そいつに関しては、由梨の見た目だけじゃなくて、由梨と本の話ができて嬉しかったんだろ。全く話したことがないのに、由梨の見た目だけで好きになるヤツらよりは、由梨のことちゃんと見ようとしてる気はする。でも、由梨が好きじゃないなら、断っていい。」

 タイちゃんは整理して話してくれた。

「まず、その水沢って子には、付き合うのは無理だって言ったようなもんだろう。もしそれで、由梨の方から誘ってきたくせにとか、思わせぶりなことをするなとか言ってくるようなら、たいしたことない男だったんだなって、切り捨てていいよ。女子達にも何を言われても、私は水沢君のことは好きではないし、告白されたけど断ったって言えばいい。それでも由梨に文句を言うのはお門違いだ。」

 タイちゃんの言うことは正しい。でも、そんなに簡単な話ではないことは今までの経験上分かっている。

「たぶん、杏奈ちゃんたちはそう言っても、私が、水沢君に思わせぶりなことしたんだろうとか言ってくるんだろうな。沙也加ちゃんが、水沢君のこと好きって知っているくせにって。」

私はそう言って、体育座りから体勢を崩した。

「もう、本当に嫌だ…。どんなに気をつけても、可愛いからって目をつけられて、面倒なことになるの。」

 色恋沙汰に巻き込まれるのはこれが初めてではない。いつも、勘違いされないように、気をつけていたが、久しぶりに告白までされてしまった。明日からの学校での日々を思うと、憂鬱な気持ちは変わらないままだった。そんな私の様子をみていたタイちゃんは、しばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「いっそ、もう彼氏がいるっていう状態にしたらどう?」

 タイちゃんが発した言葉に驚いて、私は彼を見つめた。

「どういうこと?」

「彼氏がいる人に、手を出す男はなかなかいないと思う。もちろんゼロとは言えないけど。それに、女子だって、自分が好きな相手が由梨のことを好きになったら嫌だとか、由梨が、自分の好きな相手のことを好きになったら嫌だって考えて、攻撃的になるんだろ?だったら、もう「私は彼氏がいるので、その土俵には上がりません」って宣言しちゃえばいいんじゃないか?」

 タイちゃんに言われて目から鱗が落ちた。確かに、どんなに自衛をしていても、私の見た目で勝手に好きになる人はいるし、敵対視する女子も多い。でも彼氏がいる状態なら…少しはマシになるのではないだろうか。

「確かにそうかも…でも私…男の人苦手だし…トラブルを避けるために彼氏になってもらうのは、難しいよね。」

良い案だと思ったが、現実的には難しい。

「俺がなろうか?」

 タイちゃんにそう言われて、驚いた。

「男って基本的に自分より強い相手には立ち向かってこないから、俺が彼氏ってことにしておけば、由梨が変なちょっかいかけられることも減るんじゃないか。怖がって。」

タイちゃんが顔色を変えずにサラリと言うので、私はあっけにとられてしまった。

「つまり…タイちゃんが、彼氏のフリをしてくれるってこと?」

「うん。由梨がこうやってトラブルに巻き込まれて傷つくのも見たくないし。」

 タイちゃんはいつも本当に優しい。私が困っていたときに助けてくれるのは、いつも、タイちゃんだ。

「でも、本当にいいの?私…たぶん、悪い噂も流されてるし、タイちゃんに迷惑が掛かるかもしれない。」

「良いよ。別に他人が何を言おうと。それに、俺強いから、だいたいの相手倒せるし。」

 あまりにも暴力的すぎる思考に思わず笑ってしまった。私が笑ったのを見て、タイちゃんは安心したように微笑んでいた。

「由梨は笑ってた方が良いよ。」

 その日から、私はタイちゃんに彼氏のフリをしてもらうことにした。


 翌朝、私は覚悟して学校に向かった。予想はしていたが、校門の100mほど手前で、杏奈ちゃん達が私のことを待っていた。私は深呼吸してそのまま進んだ。

「嘘つき。昨日のあれは何?沙也加がどれだけ傷ついたか分かってんの?」

全員が私を睨みつける。昨日、タイちゃんと練習した通りの言葉を言おうと思ったが、緊張してなかなか言葉が出なかった。

「何黙ってんの?いい加減にして!人の好きな相手奪ってどういう神経してんの?」

杏奈ちゃんが大声を上げたとき、

「それくらいにしてもらえる?」

そう言って、物陰から様子を見ていた、タイちゃんが私の後ろに出てきた。その姿を見て、杏奈ちゃん達は分かりやすく怯んでいた。タイちゃんは中学2年生で、既に180cm近くある。威圧感を与えるには充分だった。

「誤解してるみたいだけど、由梨は俺の彼女だから。君たちが好きな彼とどうなることはないよ。」

 タイちゃんがそう言うと、杏奈ちゃん達は声を上げて驚いていた。

「由梨を傷つけるのは辞めてほしい。」

 タイちゃんは全員を見ながら言った。静かだけど、圧を感じさせる声だった。

「…すみません。もう大丈夫です。」

杏奈ちゃんがそう言うと、彼女たちは、学校の中に走って行った。

 その様子を見て私は、心の底からほっとした。

「タイちゃん、ありがとう。ごめん、練習したとおりに言えなくて。」

「いや、女子が集まったときのあの感じは怖いから、仕方ないんじゃないか?とりあえず、俺のこと怖がってるみたいだから、変なこと言われることはないと思う。」

タイちゃんは私の方を見た。

「何かあったら、すぐに言って。じゃ。」

 そう言って立ち去るタイちゃんの後ろ姿を、私はしばらく見つめていた。


 私が教室に入ると、ざわついていた教室が一瞬静かになり、クラスメート全員が私のことを見つめた。そしてすぐ、ひそひそと話し始めた。

「なんか、すごい大きくてゴリラ?熊?みたいで、怖かった」

「それって、第二中学校の田辺さんじゃない?ほら、柔道強いので有名な」

「意外な組み合わせすぎて、びっくり」

 みんな、私のことを遠巻きに見ており、事前に想像していたとおりの反応だった。噂話は、一気に広まったようで、教室の外から出ても、すれ違う人々が私を見ながら小声で話していたが、今までのように身に覚えがない噂話をされるよりはマシだった。

 そして放課後、いつものように花壇の水やりのために、ジョウロが置いてある物置に向かうと、既にジョウロは無くなっていた。花壇に向かうと、水沢君が一人で水やりをしていた。水沢君は私が来たことに気付くと、

「俺、月、水、金がサッカークラブあるから、その日は森野に水やり頼んでもいい?火、木は俺やるから。」

花壇の方を向いたまま、提案してきた。

「大丈夫。分かった。」

私がそう答えると、水やりを終えた水沢君は、ジョウロを持って、私の方に向かって歩いてきた。

「森野…昨日は、迷惑掛けてごめん。」

 そう言って、頭を下げてきた。私は慌てて、

「謝らないで。私のほうこそ…色々ごめんなさい。」

 と言って頭を下げた。しばらくすると、水沢君の笑い声が聞こえた。頭を上げると、水沢君は少し悲しそうに笑っていた。

「お互いに謝り合って…なんか変だな。…森野、彼氏さんとお幸せに。」

 そう言うと、水沢君は立ち去っていった。フラれた相手に優しい言葉を掛けてくれる彼は良い人だと、私は思った。


 タイちゃんと付き合っているという噂の効果は絶大で、男子から変なちょっかいを掛けられたり、女子から変な敵対心を持たれることもなくなった。私は、タイちゃんに心から感謝した。


 数日後、お風呂上がりに、テレビを見ていると、お姉ちゃんが話しかけてきた。お母さんはちょうどお風呂に入ってるタイミングだった。

「由梨、太一郎と付き合ってるって本当?」

 ぼーっとしていた私は、急に聞かれて驚いた。

「お姉ちゃん、誰から聞いたの?」私が質問し返すと、

「あのね、由梨が知らないだけで、第二中のアイドル、森野真由ちゃんの妹、由梨ちゃんは、既に有名人なの。美人姉妹ってことでね。こんなに狭い町で、その由梨ちゃんに彼氏ができたってニュースは、一気に広まる訳よ。しかも相手は、柔道が強いことで有名な野獣 田辺太一郎。格好のゴシップだよね。」 

 実際美人だが、自分のことをアイドルと言い切れるお姉ちゃんはすごい。そして、その姉を知っている人たちが、私を見たら、あまりにも性格が違うから驚きそうだ、それと、たいちゃんって野獣って呼ばれてるんだなどと考えていると、

「で、本題、付き合ってるの?」

 そう言って、お姉ちゃんはじっと私を見てきた。私は観念して経緯を話した。

「ふーん。彼氏のフリねー。」

 お姉ちゃんは腕を組みながら納得していなさそうな表情をしていた。

「おかげで、今までみたいに理不尽な目にあることが少なくなったの。本当にタイちゃんには感謝してる。頭が上がらない。」

 私はタイちゃんにいかに感謝しているかを話した。しばらく私の話を聞いていた姉は、私にこう切り出した。

「彼氏のフリってことは、もし、太一郎に本当に好きな相手ができたら、由梨は身を引くってことね。付き合ってないんだから。」

 お姉ちゃんに言われて、私は心臓が止まりそうになった。確かに、その通りで、タイちゃんは、私が理不尽な目に遭わないために、付き合っているフリをしてくれているのだ。もし、タイちゃんに好きな人ができたら….私は、タイちゃんの側にいられない。

 なんで自分で気づけなかったんだろう。私は姉の質問に答えられず、そのまま黙り込んでしまった。私の様子を見ていた姉は、深いため息をついた。

「まあ、今まで恋愛経験の無い由梨にはまだ難しいか。でも1つ覚えておきなよ。」

姉は人差し指を立てながら言った。

「太一郎、あの見た目だから、野獣って呼ばれているけど、強いし、優しいから、いいなって言ってる子、意外といるからね。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。