⑤
「できたーー!」 出来上がったパズルの前で私は声を上げた。
2週間後の土曜日、2人でジグソーパズルの続きをやり、4時間かけて完成させることができた。
「うわー、出来上がると感動しますね。」
由梨さんも嬉しそうに完成したパズルを眺めていた。元々買ってあった1000ピース用のフレームに入れ、ジグソーパズルは1枚の立派な絵のようになった。
「大変でしたが、完成して良かったです。終盤で、1ピース見つからなかったときは、血の気が引きました。」
最後の1ピースが見当たらず、2人で必死に20分かけて捜索し、ソファーの間に挟まっているピースを見つけたときは、安堵のあまり、お互いに何度も連続でハイタッチしてしまった。
「大変ですけど、ジグソーパズルって楽しいですね。達成感がすごいあって。」
「そうなんですよねー。でも次はもう少しカラフルで作りやすいやつにします。今回のは作ってる最中、本当に頭が沸騰してる感じがして、大変でした。由梨さんに楽しんでもらえたようで良かったです。新しい趣味候補にぜひ。」
「ありがとうございます。趣味を聞かれて答えられるものができて良かったです。」
由梨さんは楽しそうだった。
そのタイミングでインターホンが鳴った。頼んでいた例の物が届いたのだ。玄関まで向かい、荷物を受け取り、由梨さんの元まで戻った。
「由梨さん、また新たなお誘い、良いですか?」
私は由梨さんの前で、届いた荷物を開けた。中身はスタジオジブリの作品集のBlu-ray BOXだった。「ジブリですか!すごい…パッケージ可愛いですね。」由梨さんはまじまじと見つめながら言った。
「この前、友達と、ジブリ作品でどれか好きかという話になったんです。私は風立ちぬが異常に好きなんですが、友達は観たことがないことが分かりまして。百聞は一見にしかずと言うことで、私が一番好きな風立ちぬと、友達が一番好きな紅の豚を我が家で一緒に観ようという話になったんです。ジブリってサブスクで配信されてないので、レンタルしようかと思ったんですが、Blu-rayBox売ってるのをネットで見たら、無性に欲しくなっちゃって...買っちゃいました。由梨さんはジブリだと何が好きですか?」
「...実は、私、ジブリ作品でちゃんと見たことあるものって少なくて...。唯一映画館で見たのが、千と千尋の神隠しなんですけど、それですかね。母と姉と3人で観たんですけど、映像がすごかったのと...終わり方がちょっと寂しかったので、すごい覚えてます。でもそれ以来見たことないかもしれません。」
「じゃあ、今度私のおすすめの風立ちぬと千と千尋の神隠しを一気観しませんか?映画館みたいにポップコーンも用意して。」私が提案すると
「楽しそうですねそれ。是非やりましょう。」
由梨さんは笑顔で答えてくれた。そして、少し緊張した表情になった。
「実は私からもお誘いがあるんですが...、良かったら今度また私の家でご飯食べませんか?」
由梨さんからの誘いは初めてだったので、私はテンションが上がった。
「いいんですか?ぜひぜひ!」
私が即答すると、由梨さんはまだ緊張した表情で、切り出してきた。
「あの...姉も一緒で良いですが?」思いがけない提案で少し驚いたが、由梨さんのお姉さんには会ってみたい。
「お姉さんに会わせてもらえるんですか?光栄すぎますね。よそ行き用のワンピースおろしちゃおうかな。」
私が笑顔で答えると、由梨さんはほっとした表情を浮かべた。
「良かったです。また、私ご飯作りますね。」
お姉さんの予定も合わせて、次の日曜日の夜ご飯を食べることになった。
そして、約束した日曜日の午後、私は買い出しのために由梨さんといつものスーパーに出かけた。
「円香ちゃん、何食べたいですか?」
調理は由梨さんにほぼしてもらうので、買い出しくらいは役に立とうと、カートを押す私に、由梨さんは聞いてきた。
「そうですねー。前の天ぷらが絶品だったので、揚げ物系も良いですが...お姉さんは何がお好きですか?」
私が質問すると
「うーん...お姉ちゃんはお肉料理全般が好きですね。」
少し考えて由梨さんは答えた。
「じゃあ、唐揚げはどうですか?」
「良いですね、姉も喜ぶと思います。サラダとかも作りますか。」
食材を一通り購入し、由梨さんの家に向かった。部屋の中は相変わらずものが少なかったが、1つ増えたものがあった。一緒に作ったジグソーパズルだ。
「飾ってくれてるんですね!嬉しい。」
私は思わず声を上げた。
「...大事なものなので...。早速飾っちゃいました。」由梨さんは照れ臭そうに笑顔を見せながら言ってくれた。
ジグソーパズルが完成した日、私はそのパズルを由梨さんに渡そうと決めていた。
「円香ちゃんが買ったものなのに、私が持つのは申し訳ないです。」
由梨さんは恐縮していたが、
「見ての通り、この家はもので溢れかえっているので、飾る場所がないんですよね。せっかく由梨さんと初めての共同作業で作った記念すべき作品なのに。この部屋で、ものに埋もれるのは勿体無いので、良かったら由梨さんの部屋に置いておいてもらえませんか?」
私が言うと、
「...そう言ってもらえるなら、私の家に置きますね。いつでも見に来てください。」
そう言って、受け取ってくれた。
「やっぱり何度見てもキレイな絵ですね。」
私がそう言って、ジグソーパズルを眺めるのを、由梨さんは優しく見守ってくれた。
相変わらず、料理では私はあまり戦力になれなかったが、せめて役には立とうと思い、皿洗いを一生懸命やった。料理が完成した頃、インターホンが鳴り、由梨さんのお姉さんがやってきた。
初めて見るお姉さんは、由梨さんに負けず劣らず目鼻立ちのはっきりとしたキレイな人で、儚げな雰囲気の由梨さんとはまた違った系統の美人だった。目力が印象的で、芯が強そうで、ショートカットも相まって、男装の麗人のような雰囲気を醸し出していた。並んだ姉妹の姿を見て、この家の美形のDNAは強すぎるなと思った。
「初めまして。由梨の姉の真由です。妹がいつもお世話になっています。良かったらこれ、召し上がってください。」
お姉さんはそう言うと、紙袋に入ったお土産を渡してくれた。
「わざわざありがとうございます。桜木円香です。私の方こそ、由梨さんにはたくさんお世話になっています。」私は深々とお辞儀した。
出来立ての唐揚げを囲んで、食事会が始まった。由梨さん特製の唐揚げは、衣がサクサクで噛むと鶏もも肉の肉汁が溢れ出てきた。衣は生姜が効いた甘めの味付けで、ご飯がよく進んだ。
「やっぱり、由梨さん天才です。この唐揚げは絶品すぎます。お店やりましょう。」
私が唐揚げの美味しさに感動して言うと、由梨さんは笑って
「大袈裟ですよ。...でもありがとうございます。」と言ってくれた。
「お二人仲良いですよね。私、ひとりっ子なので、兄弟とか姉妹に憧れがあって、羨ましいです。」
向かいに座った二人を見ながら話した。
「仲は良い方だと思いますけど、全然性格は違うので、一緒に住んでた時は結構、ケンカしたりもしましたよ。私は気が強いから、由梨がウジウジしてると、しっかりしなさい!ってつい言っちゃって。」
お姉さんは笑いながら話した。
「まぁ、由梨から聞いているかもしれませんが、私たち、両親2人とも亡くなってて、親戚付き合いも特になくて、お互いが今のところ、唯一の肉親なので、支え合わなきゃいけないかなと。」
お姉さんは由梨さんを優しく見つめた。
「そうなんですね。姉妹愛。素敵です。お姉さんはこの近くに住んでいるんですか?」
「隣のS市に住んでます。電車で20分くらいのところに。」
「S市ですか!私の実家S市なんです。"cuttlefish"っていうカフェバーやってるんですけど。」
「"cuttlefish"ですか?!え、私行ったことありますよ!」
「本当ですか!ご利用いただきありがとうございます!」
私は軽く頭を下げた。
「コーヒーもご飯も美味しいし、雰囲気も良くて何回も行ってますよ。えー、あそこの娘さんと、由梨が仲良くなるなんて、すごい偶然。」
思いがけないつながりに、私とお姉さんは一気に打ち解け、食事の席はとても盛り上がった。私はお姉さんを真由さんと呼び、真由さんは私のことを円香ちゃんと呼んでくれることになった。
「真由さんと由梨さんはS市出身なんですか?」
「私たちはT県出身です。S市と違って、全然田舎ですよ。私はS市の看護学校に進学したんで、そのままS市の病院で働いています。」
「真由さん看護師さんなんですね!すごいテキパキしてるから、入院したらすぐ病気治りそう。」
「そんな感じに見えますか?」
真由さんは笑っていた。
「円香ちゃんはどんなお仕事してるんですか?」
「私はざっくり言うと、webサイトとかのデザインの仕事です。」
「え、おしゃれですね!」
「うーん、同じwebデザインの仕事をやっている人の中には華やかな人もいますが、基本的に一人でパソコンに地道に向き合う感じの仕事なので地味ですよ。」
私と真由さんが盛り上がっている間、由梨さんは私たちの話の聞き役に徹しており、ほとんど話をしていなかった。そして時々遠い目をしていた。
「真由さんと一緒に暮らしていたなら、由梨さんもS市にいたってことですか?もしかしたら私がS市に住んでる時期と被ってるかもしれませんね。」
私が由梨さんに話しかけると、遠い目をした由梨さんははっとしたように、私を見た。
「あ、すみません。ぼーっとしちゃって。なんでしたっけ?」
由梨さんは慌てて聞き返してきた。
「全然大丈夫ですよ。もしかして、少し体調悪かったりします?」
私が少し心配になって聞くと、
「いえ、全然元気です。ただ、誰かとわいわい食べる食事って良いなー、懐かしいなーって思って。」
由梨さんはそう言うと、少し寂しそうに笑った。その様子を見た真由さんは少し心配そうな顔をしていた。
そのタイミングでチャイムが鳴り、由梨さんは玄関へ向かった。由梨さんが席を外したタイミングで、真由さんは話し出した。
「…この前、由梨の家に来たときに、あのジグソーパズルが飾っててびっくりしたんです。友達と一緒に作ったって聞いて、さらに驚きました。あの子、昔から性格はおとなしくて、でも、姉バカと思われるかもしれませんけど、美人で目立つから、学校とか、集団に入ると辛い思いをすることが多くて。友達の話なんて聞いたことなかったんです。でも、嬉しそうに、友達ができたって言ってて、ジグソーパズルを作った話も楽しそうにしていて…。安心しました。私以外にも頼れる人ができて本当に良かった。」
そう言うと真由さんは私に向き合った。
「あの子と、円香ちゃんがこれからも仲良くしてくれたら、嬉しいです。よろしくお願いします。」
真由さんはそう言うと頭を下げた。
「そんな、頭上げてください。私の方こそ、由梨さんと仲良くなれて嬉しいですし、一緒に遊べて楽しいです。こちらこそ、今後ともよろしくお願いしたいところです。」
私も頭を下げた。
「…なんか結婚前の顔合わせみたいですね。今後とも末永くみたいな。」
私がそう言うと2人で笑った。
荷物を受け取って部屋に戻ってきた由梨さんは不思議そうな顔をしていた。




