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由梨さんは、太一郎さんとの話をたくさんしてくれた。中学生の由梨さんが、自分の好意を自覚して、太一郎さんに告白したくだりの話を聞き、私は興奮を隠せなかった。
「なんですかそれ!太一郎さんかっこ良すぎ!!
ていうか、自分の好きな子を守るために始めた柔道で全国大会に行くレベルになるって、どういうことですか?!フィジカルが強すぎ!漫画か!!
でも!その柔道も!由梨さんのためならどうでもいいって…!愛されすぎですねーー!!」
私は興奮のあまり、身をよじらせながら大声を出してしまった。
「ときめくよね…。嬉しくて、きゅんきゅんしちゃって、思わず告白しちゃった。」
由梨さん照れながら、笑顔で教えてくれた。
「いやあ、非常にいい話を聞けています。そして、浜川君が雑魚過ぎてやばい。彼もこれほど時を経て、馬鹿にされるとは思っていなかっただろうに。」
2人ではしゃいで話をし続け、気付いたら、空が白んでいた。
「由梨さんの大切な話を聞かせてくれてありがとうございます。いやあ、太一郎さん本当に素敵な人ですね。」
私が言うと、
「うん。本当に、すごくいい人。今も大好き。…また会いたいなあ。
…前は、店でナンパされても、結婚してるんでって言って、タイちゃんを指差せば、問題なかったのに…ナンパされる度に、タイちゃんがもういないことを実感して、悲しい。」
由梨さんはそう言って、少し寂しそうに笑った。
「…指輪って残ってないんですか?」
「…火事で全部焼けちゃったから。…ネックレスにして首に掛けておけば良かったなって思ってる。大切にしすぎて、しまい込んじゃっちゃってたから。」
私は自分の中に浮かんだアイデアを由梨さんに話したくなった。
「…由梨さん。もう一度、指輪作りません?」
私の突拍子もない提案に由梨さんは驚いたようだった。
「…指輪を?」
「そうです。由梨さんの分だけじゃなく、太一郎さんの分も一緒に。太一郎さんからもらった物と同じ指輪を。左手の薬指に指輪を付けておけば、既婚者ですって言ってナンパも断りやすいし…。それに、いつでも由梨さんが太一郎さんのことを感じられるかなって。」
由梨さんはしばらく考えていた。
「…変な提案しちゃってすみません。」
由梨さんを困らせてしまったのだと思い、謝ると、
「違うの、円香ちゃん。ありがとう。ものすごく欲しい。今それしか考えられないくらい…でも、いいのかな?って思っちゃって。いつまでもタイちゃんに捕らわれすぎてるかなとか。」
由梨さんは迷っているようだった。私は、背中を押したいと思った。
「…私、傷ついたり、落ち込んだときの立ち直り方って人それぞれだと思うんです。それまでのことを全て捨て去って、切り替えて前を向く人もいれば、それまで大事にしていたものを、変わらずに大事にしながら、ゆっくり前を向く人もいると思います。
火事で太一郎さんの物も全部燃えちゃったんですよね?他に何も残ってないなら…指輪くらいはいいんじゃないでしょうか?」
俯いていた由梨さんは私の話を聞いて、こちらをみた。
「…由梨さんが欲しいと思うなら、欲しいで良いんです。太一郎さんのことを忘れないまま、前向きに生きるってことで。だって、話を聞いただけで、太一郎さんってものすごい素敵な人なんだなって思いましたもん。…無理して思い出さないようにするなんて…もったいないですよ。」
私がそう言うと由梨さんは目を潤ませながら、何度も頷いた。
「うん。私、前向きに生きるために、タイちゃんとの指輪を持ちたい。」
由梨さんはそう言って笑った。
結婚指輪のメーカーを調べると、同じモデルの指輪がまだ製造されていることが分かった。問題は太一郎さんの指輪のサイズがわからないことだった。
「ごめんね。さすがに指輪のサイズまでは覚えてなくて…。」
由梨さんは申し訳なさそうに言っていた。
「仕方ないですよ。二人とも普段から付けてなかったんだし。でも…例えば、太一郎さんが使ってた、手袋とか、軍手とかありませんでしたか?手にサイズがぴったりなヤツ。」
私が聞くと、由梨さんは少し考えて、
「…魚を捌くときに、いつも使ってた軍手があったはず。手にサイズが合わないと、捌きにくいからって、ネットでまとめ買いしてた気がする。」
由梨さんの記憶を辿って、同じメーカーの軍手を注文した。軍手が届いたら、あらかじめ購入しておいた、リングゲージと呼ばれるサイズを確認するための道具で、軍手の薬指の内径を確認した。
「20号ですか!身長も高いぶん、手のサイズも大きかったんですね。」
「うん。…大きかった。」
由梨さんは懐かしむように軍手を手に取って見つめていた。
ネットで指輪を注文した1ヶ月後、由梨さんと最寄りの店舗まで指輪を受け取りに行った。
「この度はおめでとうございます。こちらです。」
店員さんが小さな箱を開けると、2個の指輪が並んでいた。由梨さんは指輪を愛おしそうに見つめていた。
帰り道、早速指輪をつけた由梨さんは、太一郎さんの指輪が入った箱を両手で大事に抱えていた。
「円香ちゃん…。本当にありがとう。またタイちゃんに会えた気がする。」
そう言ってとびきりの笑顔を見せてくれた。
初めて会ったときに由梨さんから感じた、深い絶望はもう感じなかった。




