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翌朝、いつも通り、タイちゃんが迎えに家まで迎えに来てくれた。昨日まで気付いていなかった好意を自覚したせいか、タイちゃんがものすごくかっこ良く見えた。彼の周りだけキラキラしていた。隣にいるだけで、自分の顔が赤くなってるのが分かった。そんな私の様子を見たタイちゃんは、
「由梨、顔赤いけど、熱ない?」
そう言って、心配そうに私のおでこを触った。昨日までなら、なんとも思っていなかった行動にいちいち心臓が飛び跳ねてしまう。私はますます顔が赤くなった。
「なんか熱い気がする。今日休んだら?」
タイちゃんが私の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫、とにかく、元気だから。えっと、心配しないで。」
私は頭を左右に振りながら答えた。我ながらどう見ても挙動不審だった。
「…そっか。でも無理しないで。体調悪くなったらすぐ早退しなよ。今日、柔道クラブに別の教室から先生が来て、俺も指導を受けることになったから、昼過ぎには早退するんだ。クラブが終わったら、学校まで由梨のこと迎えに行くけど、ちょっと時間が読めなくて、もしかしたら待たせるかもしれない。」
タイちゃんは申し訳なさそうに話した。
「そうなんだ。大丈夫だよ。私一人で帰れるから。クラブで疲れた後に迎えに来てもらうのも申し訳ないし。私のことは気にしないで。」
学校と柔道クラブの中間地点に家があるので、クラブから学校まで歩くとなると遠回りになってしまう。タイちゃんにとって負担になるのが申し訳なかったのと、今の状況でタイちゃんと2人でいると、緊張しすぎて心臓がどうにかなりそうだったので、落ち着くためにも、一人で帰ろうと思った。
「えーっと...じゃあ、遅刻したらまずいから、行こう。ね。」
いつもだったら、タイちゃんのあとをついていくように歩く私が、いち早く歩き出したので、タイちゃんは少し驚いたようだったが、すぐについてきてくれた。
学校に行ってからも私の頭の中はタイちゃんのことでいっぱいで、授業中も、休憩時間に浜川君に話しかけられたときも、ずっと上の空だった。放課後、いつもはタイちゃんを待って教室に残っているが、今日はすぐに教室を出た。
一人で帰り道を歩きながら、タイちゃんは私のことをどう思っているのか、タイちゃんに思いをどう伝えるかなどと悶々と考えていると、
「森野さん!」
後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、浜川君がいた。
「今日、一人なんだね、一緒に帰ろうよ。一人は危ないし。」
私の身を案じるようなことを言っていたが、にっこりと笑う浜川君が、少し怖かった。
「ごめん、私急いでるから。じゃあ。」
そう言って早歩きを始めると、浜川君がついてきた。
「待ってよ、急いでるなら歩くペース合わせるし。俺、森野さんと仲良くなりたくて。」
そう言いながら、私の横に並ぶと、
「ねえ。前も話したけどさ、森野さんと田辺さんってどういう経緯で付き合ったの?」
と同じ質問をしてきた。こちらが拒否してもついてきて、何度も同じことを聞いてくる彼が怖かった。
「ごめん、一緒には帰れないから。私のことは放っておいて。」
私は彼の目を見ずに、歩くスピードを速めた。すると浜川君は私の腕を掴んできた。
「ちょっと待ってよ。俺に話しかけられるの迷惑なの?そんな態度取られると、傷つくんだけど。感じ悪いよ。」
彼の力は想像よりも強く、私は振りほどくことができなかった。怖かった。
「やめて、離して。」
自分でも声が少し震えているのが分かった。
「森野さん、せっかく可愛い顔してるのに、いつも仏頂面だし、無口だし、損してるよ。もっとニコニコして楽しそうに話してくれれば、クラスで浮かないで済むのに。まずは俺と仲良くなろうよ。」
そう言いながら、浜川君は私の腕を強い力で掴み続けていた。
「私のこと心配してくれてるのかもしれないけど、大丈夫だから、お願い、離して。」
私がどれだけ言っても、全く聞く耳を持たない浜川君が、本当に恐ろしかった。
「もしかして田辺さんに束縛されてるの?俺以外の人間と話すなとか。あるいは脅されて付き合ってたりする?だったら、そんな人とは別れた方が良いよ。俺の兄貴が田辺さんと同じクラスだけどさ、あの人、どれだけ森野さんのこと聞かれても何も話さないし、それでも聞くと、すごい睨んでくるらしい。ノリ悪いし、怖すぎじゃない?」
私のことは何を言われても我慢できたが、タイちゃんのことを悪く言われるのは我慢できなかった。
「やめて。彼の悪口言わないで。」
私は浜川君を睨みながら言った。
「彼は、私が嫌がることは絶対にしない。何も知らないのに、そんな風に言わないで。」
「由梨に何してる。」
振り返ると、タイちゃんがいた。タイちゃんの姿をみて、動揺した浜川君の手を振りほどいて、私はタイちゃんの側まで走った。タイちゃんは、私が浜川君に掴まれてた腕を優しくさすりながら、
「大丈夫?すぐ終わらせるから。」
と声を掛けてくれた。
「お前、由梨に何してた?無理矢理腕掴んでただろ。」
タイちゃんは怒っていた。タイちゃんに凄まれた浜川君は、猫に睨まれたネズミのように小さく見えた。
「いや…あの…俺、森野さんと友達になりたくて…。」
さっきまでの強気な態度とは打って変わって、オロオロしている彼の姿をみて、心底軽蔑した。
「友達?何言ってんだお前。」
タイちゃんの声はいつもより低く、迫力があった。
「あのっ、森野さん、クラスに仲良い子いなさそうで、浮いてる感じするんで、もっと、皆と仲良くした方が良いよっていう話をしてただけで、その...」
タイちゃんは、身を屈めて、浜川君と目線を合わせた。
「つまりなんだ、由梨のことを、心配してるつもりなのか?」
目の前で睨みつけられた浜川君は、少し離れたところから見ても、泣きそうになってるのが分かった。
「やっぱりっ、友達はいた方がいいと思うし、本当にただ心配で、下心とかじゃなくてっ、」
声を上擦らせながら言い訳をする浜川君はとても情けなかった。タイちゃんは彼の話を一通り聞いたあと、口を開いた。
「じゃあ、お前は、いつも友達を作る時、相手が嫌がっていても、友達になろうとするのか?嫌がってる相手の腕を無理矢理掴んで離さないのか?」
浜川君は答えられず、目を泳がせながら、黙っていた。
「友達がいた方が良いと思うのは別に否定しない。でも、一人でいることを選ぶのも自由だ。お前が勝手に友達が必要だろ思うのは構わないが、そう思っていない相手に、お前の考えを強要するのはおかしいとは思わないのか?しかも、力づくで。」
浜川君は黙ったまま、怒られた子供のように、俯いて小さくなっていた。
「もっと相手のことを考えろ。相手が嫌がってるかもしれないって思え。強要するな。あと、お前、浜川の弟だよな?あいつもこっちが黙ってるからって、好き放題言ってきてうるさいから、兄弟揃って、相手の気持ちを考えて行動しろ。兄貴にもそう伝えとけ。」
そう言うと、タイちゃんは浜川君に顔を近づけた。
「いいか。これは警告だ。二度と由梨を傷つけるな。次はない。返事は?」
浜川君は恐怖で身体を震わせた。
「はい…。すみませんでした…。」
そう言うと、一目散に走って、来た道を戻って行った。
浜川君が完全に見えなくなったことを確認したタイちゃんは、走って私の元に来てくれた。
「由梨、家に帰ろう。掴まれたところ心配だし、冷やさないと。」
そう言って、私をタイちゃんの家まで連れて帰ってくれた。




