#11 終わる世界 前編
肩を震わせて泣き出した美月さんを見て、日彦命が首をかしげた。
「なぜだ。巫女神は私だけを愛するようになっているはずだが。いや、これは縁の糸か? 君たち二人の間に見えるのは」
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──俺の血の奥底に眠る、古い記憶がよみがえってくる。
常世と現世がまだ一つだった頃。
漁師だった俺は大海原で遭難して、絶海の果てにあるという理想郷──蓬莱山に偶然流れ着いた。楽園のようなその島は神仙がたくさん住んでいて、一人の天女が俺を介抱してくれた。
──玉虫色に輝く艶やかな髪、濡れて輝くその瞳。なめらかな白い肌を透かす虹色の羽衣、たおやかな仕草。神がかった美貌に加え、その心も青い海のように透き通っていて純真だった。美しい声で歌い舞っては、遭難して落ち込んでいる俺の心を慰めてくれた。人間の世界に憧れていると言い、俺に娑婆の話をせがんでは、目を輝かせて聞いていた。
──やがて俺達は許されぬ恋に落ちた。
大罪を犯した俺は蓬莱山を追い出され、故郷の村へと戻された。その後、何年もかけて天女を探したが、絶海の果てにあるという蓬莱山は霧に隠れてたどり着けなかった。
俺はついに天女を諦めて、ずっと帰りを待ってくれていた同じ村の娘と結婚した。天女が蓬莱山を追放されて、人間に身を落としたことを知らないままで。
俺が受けた罰は、一番欲しいものを手に入れられないまま、死ぬまで苦しみ続けることだった。妻子には申し訳ないと思いながらも、最後まで天女を忘れることができなかった。
そして天女を愛した罪は数多の厄災を呼び寄せ、それは俺の代だけでは終わらず末裔へと引き継がれた。心を痛めた月姫命が何度も縁結びをしようとしたが、とぎれた縁の糸はどうしても繋がらなかった。
子孫が常世と現世に別れて長い時が経ったある日、月姫命は日彦神社にいた末裔の一人を見つけ、縁結びを試みた──。
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──気づくと、俺は泣いていた。遺伝子に刻み込まれ、何十代にもわたって受け継がれてきた記憶に涙が止まらない。
初めて会ったあの時に、以前どこかで会ったような気がしたのは、この魂が千年以上のあいだ、君をずっと探し求めていたからなんだ。
──俺は君をもう二度と離さない。
俺は指先から青く輝く神力を迸らせ、日彦命に直撃させた。




