#9 最終決戦 前編
柔らかな物腰の割には、日彦命の意志は固そうだった。
「そんなことのために月姫様と別れたんですか? その間にも、月姫様と一緒にいられる時間は失われていくのに」
「八百万の神より聞いたのだよ。現世では、天命の尽きた者はたとえ神であっても黄泉国へ行くと。そして、愛する者に二度と会えなくなると。私は月姫と共に永久の時間を生きるためにこの地に降りた。イザナギとイザナミのようになりたくはない」
「不死の技術の完成を待っている間に、日彦様が消滅して常世が滅びちゃう。一度現世に戻って、月姫様と二人でお元気になっていただかないと」
切々と美月さんが訴える。
「もう遅いのだ。私には現世に顕現できるだけの神力はもう残っていない。常世での信仰を回復すればいいのだが、この社の最後の氏子が高齢でまもなく息を引き取ろうとしている。そうなれば私は消滅してしまうだろう」
「じゃあ歴代の巫女神たちはどうなるんですか? 衰弱していく月姫命を支えるために依巫となって役目を耐えてきた彼女たちは? 貴方の勝手でどれだけみんなつらい思いをしてきたと思ってるんですか。手遅れだとあきらめる前に何か方法はないんですか?」
つい感情的になってしまって声が大きくなってしまう。
「ぐ……!」
胸を押さえて、うずくまる日彦命。
「日彦さまっ!」
一が駆け寄った瞬間、日彦命の全身を燃え上がる黒い炎が覆う。
「おいたわしや。最後の氏子が死に、日彦様が忌津闇神に堕ちた」




