#8 懐かしい神様 後編
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「日彦様!」
駆け寄る美月さんのセーラー服が、巫女装束に変わった。
「来てくれたか、我が花嫁よ」
その言葉に、胸をえぐられる。
──巫女神は、日彦命の妻だ。
俺が二人の間に介入できる余地はないのだという現実を改めて直視させられる。
「どうか月姫神社へお戻りください。四百年前に日彦様がいなくなってから月姫様の神力が衰えて……巫女神たちが順番にお守りしているけれど、いずれは消えちゃうの。それに、月姫様に関する神事だけを繰り返した結果、現世は陰の気が濃くなってしまって、あやかしの妖気が段々強くなってきてる。でも日彦様が戻ってきてくれたら、月姫様はきっと元気になる」
「今の私には月姫のそばにいられる資格はない。この地に安住することを決め、月姫を伴い天から降りた際、私は『複製の能力』を、月姫は『不死の能力』を一部喪失した。私は取り返しのつかないことをしてしまったのだよ」
日彦命の言葉に驚く。まさか、月姫命が不死の能力を持っていたなんて知らなかった。
「現世の神事や呪術では、月姫から失われた不死の力が戻ることがないと分かった。そこで私は四百年前にこの『常世』を生み出し、民に不老不死の法を探させた。これは医学と科学の技術を利用して斎庭で育てた不老長寿の橘の実──非時香菓だ」
日彦命の傍らの台には、小さな金色の橘の実が盛られていた。
「これ……俺が日彦神社に遊びに来ていた時に、神様が落としてくれた金色のミカンだ」
日彦命が顔を上げ、懐かしげに俺を見た。
「君は小さい頃から僕の神社によく来てくれていた……。顔つきがしっかりとして、見違えたな。まさか月姫の神力使いになっていたとは。縁とは不思議なものだね」
優しげな低音の声が、心の奥底まで響いてくる。小さい頃から大好きだった神様を目の前にして、思わず涙が溢れそうになる。
「トキジクの実で短命だった君の寿命もずいぶん延びただろう。ただ、寿命は延ばせても不死の境地にまでは至れないのだよ。だから、不死の研究が完成するまでは、私は戻れない」




