#9 最終決戦 後編
日彦命の体が浮いて何かに弾かれたように拝殿から飛び出した。
「説得どころか最悪の事態だ」
後を追って境内に出る。地面が激しく揺れ、空には雷鳴が轟いた。空に輝く太陽が、黒炎に包まれてゆく。日彦神社の上空には、黒い炎を纏った日彦命が美月さんを見下ろし、手を差し伸べていた。
「月姫よ。私と一つになろう。そして、ともに永遠の時を生きよう」
「そんな闇落ちした姿でプロポーズされても月姫様がドン引きですから!」
そう言いつつ神力を放つと、黒炎に包まれた光の矢が上空から飛んできた。
「やば!」
すんでの所でかわすと落ちた光の矢が境内の地面に刺さり、黒い炎を上げた。
──強い。特殊能力を含めると悪王子を上回るかも知れない。
「朧。手伝って」
美月さんが朧の背中に乗って飛び上がると、祓いの神火を日彦命に浴びせた。
「月姫。それが君の返事なのか。ならば私にも考えがある」
先程までとは別人のような、怒りと悲しみに満ちた冷たい瞳に、恐怖で背筋が粟立った。
「日彦様。どうかお鎮まりください!」
間に入った一に、忌津闇神と化した日彦命がゆっくりと告げる。
「一、月姫の神力使いを封じなさい」
「し……しかし日彦様……」
「幻惑」
一の金色の瞳が、黒い闇に染まった。
──精神操作。
俺の姿になった一が、大量の神力を天から降らせてくる。回避するので精いっぱいの状態だ。
「このままじゃ、日彦命に近づけない……!」
その時、つづらが飛び上がって一に噛みついた。一が元の蛇の姿に戻った。
「兄者の相手はボクだ。ナツキは日彦様の所へ」
「いかに相手がつづらとはいえ、手加減はせんぞ」
「望むところだよ。ボクの神力を全部使う覚悟で挑ませてもらう」
「月姫様のために死ぬと言うのか。オレも日彦様のためなら、命を捨てる所存!」
眷属神の二匹の蛇が白龍と金龍に姿を変え、空中に舞い上がり、戦いはじめた。あれがつづらの本当の姿だったとは知らなかった。
「ナツキ。早く!」
「つづら、死なないでくれ!」
俺は日彦命の元へと走った。地面に着地した朧に飛び乗ると、朧をあやつって赤く燃える神火を放つ美月さんの後ろで、青白く輝く神力を放出する。俺の青い神力と朧の赤い神火が合わさり渦となって、日彦命の黒炎を削いでゆく。
「よし攻勢だ。このまま続ければ祓い切れる」
「夏輝くん。日彦様を消滅させてしまっては常世も一緒に消えちゃう。弱っている日彦様を消滅させないように穢れだけを祓うか、日彦様のみたまを鎮めないと」
「急にそんな高難易度クエストを言われても……」
その時だった。
「──幻惑」
日彦命の声がしたかと思うと、天から降り注ぐ強い光に目をやられ、辺りが真っ暗になった。忌津闇神から送られたイメージが、脳内に流れ込んでくる。




