#6 思い出は玉響(たまゆら)のように 後編
美月さんがうなずいた。つづらの話では鳥居は数時間は開いているらしいが、日彦命の説得にどれくらいの時間がかかるかが分からないから、とにかく日彦神社に向かった方がいいだろう。美月さんがガーデンモールの建物を眩しそうに見ていた。
「ここが憧れの常世……本当に夏輝くんが連れてきてくれるなんて夢みたい」
美月さんが胸に手を当てて瞳を閉じた。現世に迷い込んで間もないあの日、美月さんを常世に連れていくと約束した。帰り道が閉ざされ、現世までの道のりが途方もなく遠く感じられたが、みんなに助けられて桜梅桃李の花を全て咲かせてここまで来たことが感慨深かった。
「行こう。常世を案内するよ」
美月さんとつづら、子狐サイズに変化した朧を連れて庭園を抜け、巨大ショッピングモールの内部に入る。
広いガラスの天井から降り注ぐ光が、水路状の青いプールにさんさんと降り注いでいた。プールを見つめる美月さんの瞳が、光を受けてきらきらと反射した。
「綺麗」
「この長いプールはガーデンモール内をめぐる運河になっていて、イベントの日はボートが出ていることもあるんだ」
「まるで外国にでも来たかのような。あっちにも小さなお店がいっぱい!」
プールの周囲では小さなマルシェが開かれていて、写真映えを意識したスイーツやアクセサリーが売られている。
「夏輝くんと桜町のアクセサリーショップに行ったのが懐かしいね」
「あの時は楽しかったな」
夢にまで見た、美月さんとの常世でのデート。ゲームセンターでゾンビ撃ちゲームをして、サンテラスでフルーツたっぷりのクレープを仲良く頬張った。彼女がクレープをいったい何本食べるつもりなのかはさて置いて、もし同じ世界に生まれていたら、こんなにも平凡で楽しい日々を過ごせていたのかも知れないと思う。
「ゾンビ怖かったよぉ……」
「あやかしの方がやばいでしょ。あいつら本気で魂を奪いに来るから」
「夏輝くんは常世でいつもこんな風にして過ごしてるんだね。なんか新鮮な感じ」
「いや、こういう所はあまり来なくて。いつも家でゲームばっかりだ」
「……私、夏輝くんのことをよく分かってるつもりだったけど、そうじゃなかった。現世にいる間に、夏輝くんのことをもう少し知りたかったな」
美月さんの瞳の虹彩が魅惑的に煌めいて、今にも吸い込まれてしまいそうだ。俺の方こそ、君ともっと色々な話をしたかった。あの夢のような時間の中にずっといたかった。胸が高鳴るにつれ、自分でも信じられないような恥ずかしい言葉が心の奥から出てくる。
「俺も君のことをもっと知……」
その時、背後からの視線を感じた。後ろで子連れの主婦たちが何か言っている。
「あの子、行方不明になってる男の子と似てない?」
「え? 別人でしょ。制服が違うし」
慌てて美月さんとつづらを柱の陰へと誘導した。
「くそ……指名手配犯じゃないのに!」
久々に取り出したスマホは、ちゃんとインターネットに接続されていた。俺は
『鳳凰市』『行方不明』で検索した。
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【鳳凰市の男子高校生が四月から行方不明】
「行方不明になっているのは普賢高校二年の瀬戸夏輝さん、十六歳。瀬戸さんは四月七日の午後五時に普賢ガーデンモールで同級生と話したのを最後に、行方が分からなくなっています。警察では、友人関係等のトラブルがなかったかを調べています。瀬戸さんに関する情報提供があれば、鳳凰警察署までお寄せください」
⛩⛩⛩
夢のようなデートから急に現実に引き戻されてしまった。
「やっぱり行方不明者扱いになってる」
「夏輝くん。早く警察へ行った方がいいと思う」
美月さんが心配そうに言った。
「いや。警察に保護されるのは日彦様に会ってからだ。早く行こう」




