#6 思い出は玉響(たまゆら)のように 前編
「ここは閉じかけてるけど、もう一つの道が後から出現して、しばらくの間は開いているから大丈夫だよ。ボクは何度もそれで帰っているから」
つづらの言葉に少し安心した俺は、美月さんの周りをふわふわと飛んでいた白魂を捕まえる。
「白魂、頼む。この事を、宿禰さんと巴に伝えてくれ。必ず美月さんとつづらを月姫神社へ送り届けるから!」
「ミ?」
きょとんとしている白魂を空中に放り投げると、右手に神力を込め、白魂めがけてぶちかました。
「頼んだぞ白魂!」
「ミーッ!(痛い! 何するんだ馬鹿野郎)」
青白い神力の輝きとともに、白魂が風に唸りながらつるバラのアーチを通過し、現世へと飛ばされていった。
「ああっ、お気の毒……」
両手で口を覆う美月さんに、つづらが「日頃何もしてない怠け者なんだから、たまには働いてもらわなくちゃ」と言った。
残された時間は僅かだ。迫り来る別れの時が、俺の心をじりじりと追い詰めはじめていた。お世話になった宿禰さんに、別れの挨拶すらできないかも知れないのがつらかった。
そして、巴。現世での生活が楽しかったのは、親友の巴がいたからなんだ。せめてあいつに、礼の一つも言いたかった。それから、般若と村椿にも。
だが、今できることは限られていた。顔を上げ、わざと明るく声を張り上げた。
「つづら。現世へ繋がる『もう一つの道』は、どこに出現するんだ?」
「前にナツキと行った、あの神社だよ。日が落ちるまでの三時間は開いていると思う。そこに日彦様もおられるはずだ」
「どうしてあの神社に日彦命が?」
「常世は現世を複製して作った世界なんだ。二つの世界は対になっている。現世で『月姫神社』だったあの神社が、常世では『日彦神社』なんだよ」
──思い出した。
あの神社が廃社される前、両親が「『日彦さん』の縁日に行こうね」と言っていたことを。
俺の悩みをいつも聞いてくれて、そのたびに小さな金色のミカンを落としてくれた優しい神様。わずかな希望が見えた。昔から知っている大好きな神様ならば、俺の説得に応じて月姫神社に戻ってくれるかも知れない。
「行こう。日彦命を説得するチャンスだ。日彦命が現世へ戻れば、弱体化した月姫命の神力が回復して、君が月姫命の依代になる必要もなくなるかも知れない。そうなれば君は巫女神を降りて自由になれる」




