#4 月姫日彦─常世への帰還─ 前編
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学校から帰ると、台所には巫女装束の上から割烹着を着た美月さんがいた。その態度は、いつもと同じように見えた。
「夏輝くんおかえりなさい。遅かったね」
「帰り、不幸にも謎の宗教団体につかまってさ。古代文明の儀式を一緒に復活させようとか言われて……うちは神社だって言ってるのに」
美月さんの口元が少し緩んだのを確認してから、俺は謝罪の言葉を切り出した。
「昨日は言いすぎてごめん。それに今日も……」
言葉がうまく継げずに困惑していると、美月さんがいつもの優しい笑顔で微笑んだ。
「ううん気にしてない。夕飯は私が作るから、夏輝くんはたまには休んでてね」
先ほど般若と村椿が美月さんが俺のことをを好きだと言っていた話は、やはり彼女たちの勘違いだった。美月さんが俺なんかに恋愛感情を抱くわけがない。ほんの少しの期待が、やっぱりという確信と落胆に変わった。そして役割を求められなくなった今、空虚な心の中を冷たい風が吹き抜けていった。
夕拝を終えた宿禰さんがダイニングに来た頃、俺達の目の前に謎の料理が置かれた。死人の顔を連想させる紫色の太さバラバラの麺に、黄身の飛び出したゆで卵やスプラッタ状態のトマトといったグロテスクなトッピングが施されている。
「これ何ていう料理? 今日ってハロウィンだったっけ?」
「特製納涼うどんだよ」
俺達三人は、誰が毒見役になるかで揉めた。
「夏輝くんや。ぜひ君が最初に食べて美月に美味いと言ってやってくれ」
「いえ宿禰さん。可愛いお孫さんの手料理ですよ……?」
「わしは老い先短い。ここは若い夏輝くんか長寿のつづら様が栄養をつけるべきじゃ」
「ボクはヤダよ。本人のためにハッキリ言ってあげるのも愛情だよ」
「……あれ? みんな食べないの? 美味しいよ?」
結局の所、俺達は彼女の笑顔に弱かった。
「……じゃあまず俺が……」
想像を絶する暴力的な辛さ。いや、辛いと言うより口の中全体に激痛が走り、味覚細胞が破壊されていく。
「夏輝くん美味しい? 一生懸命作ったんだよ」
「……美味すぎて……涙が……」
「ゴホッ! あれに見えるは死者の国と現世の境目──黄泉比良坂か……」
「お、おじいちゃん大丈夫!」
俺達は体調を崩し、夕食後に寝込んだ。
美月さんと話せるようになり、巴のおかげで般若達の誤解も解けたが、俺と美月さんの間には次第に距離が生まれはじめていた。




