#3 すれ違う心 後編
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翌日、美月さんは日直だからとずいぶん早くに家を出てしまい、俺はつづらと月姫神社を後にしたが、いつもの通学路が色を失って見えた。
さらに休み時間、俺は般若あかりに呼び出しを受け、多目的教室前の廊下にいた。後ろでは制服姿の卜部巴と村椿琴梨が生き証人として俺達二人の話を聞いている。
ショートヘアでボーイッシュな般若は背が高く勝気であり、セーラー服に快活なミニスカート姿とは言え、男以上の迫力があった。
「アンタ美月に『俺に依存するな』とか言ったんだって?」
「いや、そこまで冷たい物言いは」
腕組みをした般若が鬼の形相で迫り、後ずさりする俺に恋愛脳の村椿が三つ編みヘアの先をいじりながら問題発言を投げかけた。
「瀬戸くんから別れ話を切り出されて美月ちゃん泣いてたよ」
「えっ! いや、そもそも付き合ってない……って言うかお前らいつも話を拡大解釈しすぎなんだよ。何とか言ってくれよ巴!」
女子二人の後ろでは眉根に皺を寄せた巴が、気だるげに壁にもたれかかっていた。
「二人の問題に僕がどうこう言う筋合いはないが、朧の養育はちゃんとしないとな。少なくとも君たち二人の子どもなんだから」
通りがかった下級生が、ぎょっとした顔で俺を見た。突き刺すような視線が痛い。
「狐の話だから! 巴まで誤解を招く言い方やめて」
「アンタ美月を護るって言って……常世を見せてあげるとか調子いい事言って無責任じゃん!」
般若から浴びせられたのは、一番痛い言葉だった。
「違うんだ。彼女を護るって言ったのは、あくまで神力使いとしての役目で……」
叫んだ瞬間、ちょうど配り物の束を抱えた美月さんが通りかかった。
俺と目が合った瞬間、美月さんが背を向けて走り去っていく。
──聞かれてしまった。
「待って!」
「美月ちゃん、小さい頃から祭祀の世界に身を置いて、好きな場所へも行けず恋もせず、しきたりに縛られて一人で頑張ってきて……瀬戸くんの存在が救いだったみたいだよ。瀬戸くんが来てくれてから、すごく明るくなったんだから」
村椿の言葉に、心が痛む。
「救いだって? それは俺が神力使いだからだ。俺なんかどうせ平凡で根暗で不幸で……」
般若が俺の襟首をつかんだ。
「何す……」
「美月はアンタを好きなのに……アンタが美月に本音で話してないのがあたしは許せない」
──美月さんが俺の事を。
呆然として動けない。俺の襟首を離して去っていく般若を村椿が追いかける。巴がため息をつきつつ、俺の肩に手を置いた。
「夏輝の気持ちも分からないでもないけど、何かを手に入れる時は何かを手放さなくちゃいけない場合もあるからな。中途半端が一番ダメだ。頃合いを見て般若たちに話をしておくから、君はタイミングを見て謝れ」
「ありがとう巴」
──何かを手に入れる時には何かを手放す。クールな巴らしい言葉だ。だが俺は頭の中がいっぱいで、どうしていいのか分からなかった。彼女が自分を想ってくれていることが分かったのに、その気持ちに応えられない。
「君を護る」という言葉は嘘じゃない。いつだって俺は真摯に役目を果たしてきたつもりだ。
ただあの時は、美月さんを好きになるなんて、そして別れがこんなにつらいものだなんて思いもしなかった。彼女を諦めるために自分の心に嘘をつき、さらにそのせいで友人たちから責められ、もう泣きたい気持ちでいっぱいだった。
回避しようとしているのに、見事に不幸への道を突き進んでいってしまっているという自己矛盾を抱えながら、その後も美月さんと目を合わせることができず謝る勇気もなく、学校が終わると別々に帰った。




