#3 すれ違う心 前編
神力で編み出した神剣で朧の吐き出す深紅の神火を斬り払うと、複数に分かれた神火が鬼たちを一挙に祓った。手水舎の脇では、美月さんが、血の気の失せた表情でうずくまり震えていた。
「大丈夫?」
差し伸べた手を、美月さんがそっと握る。
「こわかった……ごめんね。私、また余計な事しちゃった」
震えている細い肩を抱きしめて、もう大丈夫だよと言ってあげたい衝動に駆られる。
──ダメだ。これ以上好きにならないために、今よりも距離をおかなければならない。
俺は敢えて心を鬼にすることに決めた。
「俺のために摩尼車を手に入れてくれたのは嬉しいけど、君は巫女神なのに危機管理意識が足りない。いつも後先考えないで行動して危なっかしすぎる。巫女神の霊魂を欲しがるあやかしはごまんといる。いきなり飛び込んで行って命を奪われたらどうするつもりなの? 君に何かあったら俺は……」
俺の言葉に美月さんがびくりと身を震わせた。
「ごめんね。私、今まで夏輝くんを頼り過ぎてた」
桜色の唇がきゅっと締まるのを見て、俺の胸が痛んだ。
「いや違うんだ。俺は君が心配で……」
「私、これからは夏輝くんを心配させないようにしたいと思うし、自立する」
せっかく俺を常世に帰そうとしてくれた彼女を傷つけてしまった。激しい後悔が俺を襲う。
──ごめん。本心はそうじゃないんだ。現世に住む君と、常世人の俺は結ばれない運命。お互いが不幸になる前に、この道を引き返すべきなんだ。
⛩⛩⛩
あんなに楽しかったあやかし夜市なのに、家の中へと入った俺たちは、その後もお互いに言葉を交わすことはなかった。
布団に入り電灯を消しても、眠れなかった。家族や友達に会いたい。傷つけてしまった白川ゆりあにも謝りたい。
でも、美月さんにつづら、巴に朧、宿禰さん。現世のみんなと別れたくない。常世と現世。二つの世界が俺を苦しめ迷わせる。その苦しみを断つには、感情を切り離すしかない。俺のした事は間違っていないはずだ。
なのに、こんなにも心が苦しい。




