#2 神剣クサナギ 後編
ようやく帰ってきた月姫神社の境内。
「死ぬかと思った。だから君は危機管理意識が……!」
「ごめんね夏輝くん。でもこれで、きっと常世に行けるよ」
美月さんが摩尼車を取り出した。
「今回すの? 俺、心の準備が……」
「進級もかかってるし、急いだほうがいいと思う。それから私も夏輝くんと一緒に常世へ行って、日彦様を探して、戻ってきてもらうように説得するの」
「それが叶えば、月姫命が元気になって、いずれは巫女神も必要なくなるかも知れない。でも、常世と現世を繋ぐ道はごく短い時間しか開かない。そうなると今度は君が現世へ戻れなくなる」
「でもこの摩尼車を使えば、一瞬で功徳が積めて簡単に行き来ができるようになるかも知れない」
「……分かった」
心を決めて、美月さんに手渡された摩尼車を震える手で構えた。
「よし……行くぞ!」
金属製の鎖とおもりがついていて、鎖を引くとおもりの遠心力で真言を刻んだ筒が回り、真言を唱えたことになるという訳だ。摩尼車を回した途端、ざわざわと生臭い風が吹いて、あちこちから何かが集まってきた。着物姿のざんばら髪の鬼、腰に布一枚を巻いたイノシシのような顔の鬼がどんどんと増えてくる。
「あれはまさか、疫病神……?」
青ざめる美月さんを見て、鬼たちがざわめいた。
「この娘、ただの人間ではない。神格を宿している」
「神を憑けた依巫──巫女神か」
「その気高きみたま、我らがいただく」
鬼たちの術が、美月さんを狙う。
「うっ……!」
苦しげに胸を押さえた美月さんの首の後ろから霊魂が遊離しかけた。
「危ない!」
慌てて彼女の背中に上から覆いかぶさり、霊魂をガードした。背中に神力を流すと、後ろから飛び掛かってきた鬼たちが弾け飛んだ。
「神力使いを見るのは何百年ぶりか……」
青白く輝く祓いの力に怯む鬼たち。
「どうして疫病神が集まってくるの? どうして……」
美月さんの顔から血の気が引き、パニック状態になっている。
「この摩尼車にどんな経が書かれているか分からないけど、恐らくは回せばロクでもないものが集まってくる邪法なんだと思う。俺たちは夜市で騙されたんだ」
「そんな」
「疫病なら熱でやっつけるのが相場だ。朧! 神火で焼き払ってくれ!」
「こん!」
俺は拝殿に置かれている随神の像から刀を拝借した。神力をまとわせて振り回すと、鬼たちが急に動揺し始めた。
「なんだこいつのこの刀は……どこかで見たぞ」
「まるで素戔嗚尊の草薙剣と瓜二つではないか」
「ああ、悪王子神スサノオは月姫神社の祭神だからな。疫病神よ去れ! 神剣『クサナギ』!」




