#2 神剣クサナギ 前編
懐の守り刀で黒髪の一部を切って渡そうとした美月さんの横から、俺がひょいと横から髪を取り上げてポケットへ仕舞った。
「ごめん。髪はあげられない」
「あんだとぉ?」
「その代わりにこの人間界の漫画雑誌の発売日を見てくれ。明後日になっているだろう」
「なんで未来の本を天狗の旦那が持ってるんだ?」
「妖術だ」
単に桜町のタバコ屋で漫画雑誌を早売りしているだけの話なのだが、俺はわざともったいぶった風に言った。
「こいつは面白ぇ。旦那の妖術、凄いじゃねぇか」
何とか交渉がうまく行き、俺たちは胸を撫でおろして歩き出した。
「ありがとう夏輝くん。でも、良かったの? 巴くん達と一緒に読むって言ってたのに」
「体の一部や愛用品はなるべくあやかしに渡さない方がいいって巴が言ってたから」
その時、夜市の中をつむじ風が吹き抜けて、俺は風にあおられる妖怪変化の呪符を慌てて押さえた。つむじ風の正体は、四本の足の先に鋭い鎌を生やした三匹のかまいたちだった。
「匂う、匂うぞ! 人間の匂いィ」
「あやかし夜市に紛れ込んでるんだとしたら、切り刻んで魂抜いて喰ってやらないとなァ」
「魂をたくさん喰えば、おれっち達も晴れて風神様に格上げでェ」
切り刻まれてはたまらない。かまいたち達があちこちを嗅ぎまわりはじめ、すばやく俺のところに近づいてきた。美月さんが俺の袖を引く。
「夏輝くん、どうにかやり過ごして!」
「どうにかったって……」
「そこの天狗の旦那、えらく匂うがなんでだィ?」
「え、えーと……さっき人間の店で暗黒ラーメンを食べたから……た、多分ニンニクの匂いかな……」
三匹のかまいたちに見つめられた俺が焦って視線を泳がせた時、額の妖怪変化の呪符がはらりと落ちた。
「やば! 不幸!」
「おい人間が紛れ込んでるぞ! 魂をよこせぇぇ!」
隣で筋骨隆々の黒鬼が叫び、一瞬にしてあやかし夜市が大混乱に陥った。
「朧!」
美月さんがその名を叫んだ瞬間、疾風とともに白狐の朧が現れて、俺達三人を背に乗せた。赤く燃える神火を一吐きして鬼達を撹乱し、大きく跳躍する。俺達は命からがら、あやかし夜市から脱出した。




