#1 あやかし夜市 後編
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腹ごしらえも終わり、俺達は夜市に来た。夜市と言うと、東南アジアや中華圏の国で開かれている、食べ物や雑貨の露店が集まったナイトマーケットのイメージがあるが、俺達が来ているのは人ならざる者が集まる『あやかし夜市』だ。
昼間は寂れた四つ辻だが、夜になると位の低い神やあやかし達で賑わうと巴が言っていた通り、いつの間にか巨大な黒い招き猫が鎮座し、怪しげな漢字が書かれた提灯と謎の看板がずらりと並んだ。狐の面をかぶった集団や、古道具が着物を着た付喪神、鬼に河童、一つ目なんかがぞろぞろと歩き回っている。俺の役割はもちろん巫女神のボディーガードなのだが、懸念があった。
「わざわざこういう場所に来て大丈夫なの? 巴は拝みの仕事で不在だし、宿禰さんにはラーメン食べに行くことしか伝えてないし、やっぱり気が重いんだけど。君はいつも危機管理意識が足りないから」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うじゃない? もしかすると常世に関する情報が手に入るかも知れないし」
「それに正体がバレたらまた狙われるよ。巫女神や神力使いの霊魂って貴重なんでしょ?」
「変装するから大丈夫だもん」
俺たち三人は、巴謹製の妖怪変化の呪符を額に貼った。俺は天狗、美月さんは角と牙を生やした鬼娘に変化した。
「いざ出陣だよ!」
「いやつづらだけ何も変わってないけど!」
「蛇だから別にいいんじゃない?」
「ホントいつも適当だよな。不安しかない」
しかし、いざ霊怪妖神でごった返す夜市に足を踏み入れてみると、あっと言う間に熱気に呑まれた。
赤い提灯の下に並ぶ怪しげな品々に、俺たち三人は目が釘付けになった。
冬虫夏草のような仙薬の類や怪しげな呪符、謎の儀式用の呪具に妖術の古書にお香と食べ物、あやかし達の熱気といった雑多な匂いが入り混じり、胸が高鳴る。
「将門の鎧、天狗の遠眼鏡、天女の羽衣、妖刀村正……信憑性はないけどロマンを感じる」
「ナツキ、こっちは増設用の目玉だって。あやかしが目の数を増やしたい時に買うみたい」
「ねえ二人とも、こっち!」
美月さんの前に、怪しげな円筒形の器具があった。手のひらサイズの金属製で、筒の周囲には見慣れない文字が記されている。
サンスクリット語──インドやネパールで使用されている、アーリア人によって伝えられた古代語だ。着物を着たゴイサギが首をひょいと伸ばした。
「鬼のお嬢ちゃんお目が高いね。それは通天摩尼車と言って、表面にありがたい真言が刻まれている。回転させた数だけ真言を唱えたことになって、驚異的な早さで功徳が積めるシロモノだ」
「うちは神道だから関係ないし、それに回転させた数だけ徳が積めるなんてうまい話は……」
言いかけた俺に構わず、美月さんが身を乗り出した。
「これなら常世へ行けるかも知れない。これをください!」
美月さんを見つめるゴイサギの瞳が妖しく輝いたのを俺は見逃さなかった。
「なら、お嬢ちゃんの綺麗な髪ひとふさと交換だ」




