#8 神格では敵(かな)わなくとも 前編
とぐろ攻撃から解放された瞬間、神力を鎖状に素早く編んで悪王子の身を縛る。はっきりとした手ごたえが伝わってきた。巴が俺に問うた。
「夏輝、今の技はいったい何だ?」
「俺、巴や宿禰さんみたいに術や祝詞のバリエーションがなくて、『神力!』だけじゃ芸がないから、超絶かっこいい技の名前をちょうど今思いついたんだ」
「中二病め。繰り出しているのが神道の力なのに技の名前が英語なのは中途半端だぞ」
「とか言って本当は羨ましいくせに。お前も何なら術の名前をカタカナにしてもいいんだぜ」
「ふん。正道をゆくのが僕のポリシーだ」
「おい、ポリシーって確か英語だろ」
「おのれ! 神をも畏れぬ数々の振る舞い、許してはおけぬ!」
悪王子の全身から強大な青い雷が迸り、俺の神鎖が弾け飛んだ。
飛んでくる神雷を巴が結界を張り巡らすが、たちどころに破られた。続いて、つづらの神力も青い雷を相殺して消滅し、俺達はその反動で後ろに倒れた。
悪王子が倒れた俺めがけ、続けざまに神雷を放つ。間髪いれずに巴が二重結界を張るが、再び粉々に砕かれてしまった。後は神力の総量での勝負だ。悪王子の青い神力と、俺とつづらの青白い神力がぶつかり合い、力を削り合う。しかし、相手は神様。力の底が知れず、徐々に神雷のエネルギーが強さを増してくる。俺が押し負けてきたのを見かねた巴が次々に俺とつづらの周囲に結界を張ってくれるが、破られる速度が次第に増してくる。
「やばい。防御がもう持たない」
そう言った時、障りの原因である忌津闇神を祓ったことと宿禰さんの祈りによって、悪王子の神力が回復していることに俺は気づいた。
「悪王子さま! 貴方の神力は既に回復していますよね! 最初の約束通り、雨を降らせてください」
「雨は降らせてやろう。ただ、神力使いよ。お前は神を愚弄した。雨を降らせるのは、お前の命を奪い、巫女神を我が妻とした後だ」
悪王子の美しい瞳には、執念に燃える怒りの炎が宿っていた。
「死して償え」
それは詭弁だと言い返す間もなく、青い神雷が巴の結界と雷公の最期の加護を同時に破り、俺に直撃した。
──終わった。
後ろに吹き飛んで倒れながらうっすらと目を開くと、俺の身体は焼けこげる代わりに、桜色の優しい光に包まれて無事だった。悪王子の結界を抜けた美月さんが、俺の上に覆いかぶさってうつ伏せに倒れていた。俺をかばって悪王子の神雷を受けた彼女の背中が燻り、白衣も緋袴も所々焼け焦げていた。
「結界を抜け、神力使いをかばったか。その程度の損傷で済むとは、さすがは巫女神よ」
「美月さん!」
美月さんが悪王子を見上げるその瞳は、涙で潤んでいた。
「お願い、彼を助けて。助けてくれるなら私はどんなことでも……」
俺の頬に、彼女の熱い涙が雨粒のように滴り落ちた。
「何を言ってるんだ美月さん! 君が悪王子と結婚して命を救ってくれたとしても……」
俺には無理だ。君のいない世界で生きていくなんて。
悪王子がぎらりと光る眼で俺達を見下ろすと高らかに嗤った。
「巫女神に護られる神力使いなど笑止千万。女にかばわれて情けないとは思わぬのか?」
その言葉に、歯を食いしばりながら身を起こして右手を掲げ、悪王子社の中で青く輝く分霊に狙いを定める。
「どういうつもりだ?」
「見ての通りですよ。雨を降らせてくださらなければ、貴方の分霊を月姫命の神力で撃ち抜きます」




