#6 雷公(らいこう)の加護 前編
「巴!」
俺の周囲に、きらきらと高貴な紫の輝きを放つ、薄絹のように繊細な雷除けの結界が張りめぐらされてゆく。
「おい巴ビビってんのか? 昨日の練習の時よりも結界が薄いぞ。こんな薄絹じゃなくて、防護シャッターぐらいに分厚くだな」
「ど素人が愚弄するな。僕の技術は君と違って繊細なんだ! つづら様の尊い神力を粘土みたいに適当にこねくり回している君と一緒にするな!」
巴が俺を睨みつけた後、ふっと鼻で嗤った。
「そもそも夏輝は神力の扱い方自体が雑だ。スポーツ感覚で祓いをやってる」
「何だって? もう一回言ってみろよ」
「楽しくお喋りしている暇はないぞ!」
悪王子が雨雲をあやつり、青い雷を落とす。短い高音が連続して空気を切り裂く。巴の結界の中で、俺は右腕を天にかざして神力で防護壁を張った。落雷を受けた巴の結界が悪王子神の神雷の力を削いで破れ、結界を破り落ちてきた神雷の衝撃が右手に伝わる。
とにかくまずは、一回目を耐えた。その間を見計らって、つづらの神力を悪王子へぶつける。つづらの迷いが吹っ切れたのか、右腕に送られてくる神力にも躊躇がない。
「こしゃくな」
悪王子が自らの体の周囲に青い稲妻を纏わせ、俺がぶつけた神力を打ち消した。再び、悪王子の全身が青く輝きはじめる。先程よりも強い威力の神雷が来る予感。ここは防衛に注力することにする。
「巴。さっきよりでかいのが来る。陰陽術を重ねがけして二重結界とかにできないか?」
「無茶言うな。そんなのできるわけないだろ! 東方は阿迦陀、西方は須多光……あれ。できた」
拍子抜けしたかのような巴の声と共に、俺の周囲に二重結界が張られる。たちどころに閃く稲妻、引き裂かれる結界。残りの神雷は、つづらの神力で防ぐ。これで二回、大きな神雷に耐えることができた。
「腹立たしいにも程がある!」
悪王子の激しい怒りの矛先が、巴に向かう。俺はすかさず神力を大量に注ぎ、ノーガード状態の巴の周りに障壁を張った。神雷がつづらの神力の壁に阻まれて青い火花とともに散った。これで三回目の攻撃に耐えた。神力の残量はあと半分程度、ぎりぎりで耐えられる計算だ。
「次は本気で行くぞ!」
怒りを増す悪王子の鬼気迫る形相に、思わず背中に寒気が走った。悪王子の神力が増す。俺も神力を充填し、次の攻撃に耐えられるように身を包んだ。
「夏輝、下がってろ!」
巴が素早く秘咒を唱えるが、相手の方が早い。
「ははっ、もらったぞ」
巴の二重結界を破り、つづらの神力の障壁も突き破って雷が落ち、俺を直撃する。
──間に合わなかった。目の前が、真っ白になった。




