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#6 あやかし愛づる姫巫女

 ⛩⛩⛩


「夏輝くんの制服、おしゃれで羨ましい」

「ホント? 喪服みたいじゃない?」

「ううん。ジャケットもズボンも高級感があるし、空色のネクタイも素敵」


 お世辞かと思ったが、美月さんが俺を見つめる眼差しにはなぜか熱がこもっていた。


「この辺りの高校の制服は学ランとセーラー服しかなくて。常世はきっと都会的で洗練された夢のような場所。私も行ってみたい」

「いや、そんな大した所では……」

「古くから、日彦命の造りし常世は理想郷だと伝えられてきました。常世は私たち現世人うつしよびとの憧れの場所なの」


 うっとりと語る美月さんは素朴で自然体で、とても話しやすかった。ふと、今日からこの可憐な女子と同居するという事実を改めて認識する。いつもならここで恒例の不幸イベントが発生する頃だが、チンピラでも出てくるのではないだろうか。


 警戒しつつ彼女の背後を凝視していたその時、白くて丸い人魂が数匹、ミーミー鳴きながら出てきた。


「つ、つづら! こいつらは一体何?」

「月姫神社の居候あやかし、白魂しらたまだよ。ミヅキが拾ってきたんだ」


「居候あやかし?」

「ナツキと一緒だよ」


 俺は白魂を見つめた。さっきの忌津闇神と言い、ここではこういう目に見えない存在が普通に見える世界らしい。


「俺と一緒か。よ……よろしくな」

「ミミー(どこの馬の骨とも分からん貴様と同列で我らを語るな。我らはこの神社を守護する存在)」

「守護するのは口先だけで、ただ居ついておるだけじゃろうが。祓えたまきよたまえ!」


 宿禰さんが白い紙のたくさん下がった大幣おおぬさをばさばさと振って、まるで親の仇とでも言わんばかりに白魂達を追い払おうとする。


「こりゃ美月! あやかしを清浄なる神域に引き入れるなどもってのほかじゃ! あれだけ捨てて来いと……」


 宿禰さんの顔が怒りで真っ赤になっている。


「だって、こんな可愛い子達を捨てるなんて無理だもん!」

「ぬいぐるみを着たあやかしに憑かれても知らんぞ!」

「ミヅキは可愛いあやかしに目がないんだ」


 つづらが俺に耳打ちした。


「ここは神社なのにどうしてこういう奴らが出入りできるんですか。鳥居の中って基本的に聖域だと思うんですけど」

「我が月姫神社には、いにしえからの巫女神信仰がある」


「そう言えばさっき忌津闇神もそんなことを言ってたような」

「この家系に生まれる女子は憑依体質が多く、代々、この神社のご祭神月姫命の神格を宿す依巫よりまし──『巫女神』として神託しんたくを受け、この地に豊穣をもたらしてきた。いわば『生き神』じゃ。そして、月姫命の神力に惹かれ、多くのあやかしがこの神社に集まってくる」


 俺は先ほど忌津闇神を祓った時の美月さんの神々しく気高い姿を思い出した。確かに女神が中にいると言われれば納得できないこともない。


「日彦命が出ていかれてから月姫命の神力が衰弱した。巫女神は月姫命の神力を維持する大切なお役目であることを美月は分かっておらん。そして本来、『神力使い』は『巫女神を護るための存在』」

「護る? 俺が美月さんを?」


「月姫命をおびやかす大きな厄災が起きる時、月姫命を守護する神力使いが現れると言うが常世人の君がなぜ神力使いに選ばれたのか理由が分からん」

「確かに俺、本来は現世にいるべき人間じゃないですもんね」


「さよう。常世にいては巫女神を護れない。それに、これが大厄災が起こる前触れだとしたら、大変なことじゃ。つづら様は眷属神としてどう思われる?」

「ナツキは小さい頃から神社の清掃奉仕をよくしてて、常世で弱っていたボクをカラスから助けてくれたの。心がけのいいナツキの不幸ぶりを憐れんだ月姫様がしばらくの間これで身を護りなさいって特例で神力を授けてくれたみたい」


「夏輝くんがあくまで例外で、大きな厄災が起こらないならいいのじゃがのう。そもそもわしが摂社末社のまつりに出ている間、忌津闇神が顕現したと言うではないか。それも引っかかる。とにかく、月姫神社にあやかしが集まってくるのは、あやかしを魅了する巫女神の力の影響。しかしいくら月姫命のご神徳とはいえ、白魂をみずから神域に引き込むとは神職としてこれは相容れぬ矛盾。そこに正座しなさい!」

「はぁ……いったん始まったら長くて。夏輝くんちょっとだけ我慢してね」


 ため息をつきつつ、美月さんが俺に小さく頭を下げた。つづらがあくびをする。


「まったく本当になっとらん! 少しは巫女神としての自覚をじゃな。くどくどくど……」

「……いや待って! 何で俺まで一緒に怒られてんの?」


 その後、宿禰さんの説教は一時間近く続いた。


挿絵(By みてみん)

⛩️常世現世裏話⛩️【キャラクター紹介】

瀬戸夏輝 16歳 7月7日生まれ

…不幸だけど明るく爽やかな一面も持つ。夏をイメージした名前で好物はカレーと漫画。実は4人きょうだいで姉、妹、弟がいる。妹や弟と遊ぶのが好き。強い姉には逆らえない。


蓬莱美月 16歳 9月15日生まれ

…月姫の巫女なので月をイメージした名前。好物はあんこ菓子と可愛いあやかし。大学生の兄がいる。お人よしで我慢強い性格だが、食欲にはどうしても抗えない。


白蛇つづら 300歳以上 誕生日不詳

…本当の名前は九十九と書いて「つづら」。好物は卵とカエル。見た目は可愛いけど性格は少しドライ。夏輝のことが放っておけなくて色々助言をしてくれるしっかり者の小さな蛇。

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