#4 明日には消えてしまうかも知れぬ幻 後編
この想いを葬り去ると決めたはずの俺は、その決意も忘れて両腕を彼女の背中に回しかけていた──その時だった。
首にかかった御守り紐が急に後ろから強く引っ張られ、思わず叫ぶ。
「美月さん。首絞まってる首! 紐が君の浴衣の袖に絡まってる!」
「きゃあ! ど、どうしよう!」
「い……息が……」
美月さんが慌てふためくほどに、俺の首が絞められていく。俺は彼女が壊滅的に不器用であることをすっかり忘れていた。
──深夜の月姫神社。首を絞める御守り紐から解放された俺は、けほけほとむせていた。
「不幸……!」
「ごめんなさい」
しおれた様子の美月さんが、紐を切ったハサミを裁縫箱にしまうと蓋を閉じた。
「まさか身内に刺客がいたとは」
「夏輝くんひどいよ」
ふくれっ面の美月さんを見ていると急に笑いがこみ上げてきて、俺は思わず笑った。美月さんもつられてくすくすと笑い出し、俺たちの間にいつもの空気が戻ってきた。
「君のおかげで落ち着いた。俺、明日は頑張るよ。ありがとう」
「いつもの夏輝くんに戻って良かった。明日はぜったい大丈夫だよ。おやすみなさい」
小さく頭を下げて無垢な笑顔を見せた後、ちょうちょ結びにした帯の背中を見せて、美月さんが階段を上っていく。とにかく明日は雨乞い神事を成功させて、自分の気持ちに決着をつける。美月さんと話して安心した俺は、やがて眠りへと落ちていった。
数時間後、俺は宿禰さんの声で目を覚ました。
「夏輝くんや起きてくれ。美月がいなくなった」




