#3 神の特性『一霊四魂』 後編
「青二才が虚勢を張るか!」
雷鳴とともに、青く強烈な光が一瞬にして放たれる。俺はとっさに右手を高く差し上げ、つづらの神力で頭上に障壁を張った。
「貴様、一体何者だ!」
「俺は巫女神を護る神力使いだ!」
悪王子の稲妻が、俺の神力に相殺されて消滅した。しかし、さすがに相手が神様だけあって、右腕を流れる神力がいつもとは段違いの速さで消耗していくのが分かる。
その辺のあやかしたちとは格が違いすぎる。いつもは助けてくれるつづらさえも、すっかり委縮してしまっている。このままでは身がもたない。
悪王子が憎々しげに言った。
「この者が、あの明光と同じ『神力使い』だと? 不愉快極まりない。次は本気で行くぞ」
悪王子の全身が青く輝きはじめる。神力を溜めているようだ。静かな怒りに燃えるその目は、執拗さを感じさせる。悪王子の本性である蛇は、執念深いと言う。一度危害を加えられれば、必ず仇をなすと。
悪王子が怒りの神雷を放つ。白い閃光が網膜に焼きついて何も見えなくなる前に、俺は右手で顔を覆い隠し、目を固くつむった。
「……」
──目を開ける。雷は落ちていない。
目の前の悪王子が、ぐらりと崩れ落ち、その場に倒れ伏した。
「どうなされたのですか」
宿禰さんがおそるおそるといった調子で尋ねると、悪王子が力なく言った。
「力が湧かぬ。五霜山の悪王子社に、障りが出たか。明後日の山の祭礼までに障りを取り除き、オレの神力を復活させろ。そうすれば巫女神を娶る話は白紙にしてもよい」
──助かった。
思いがけぬ猶予を得た途端、体中の力が抜けて俺はその場にへたり込んでしまった。命を奪われる危機から脱したとは言え、全身の震えが止まらなかった。
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月姫神社社務所。つづらを抱いた美月さんが、唇をきゅっと結んだまま、恨みがましい目で俺を見てくる。
「……夏輝くん。自分の命を粗末にしないで」
「ご、ごめん!」
「夏輝くんに何かあったら私……」
美月さんの目からぽろぽろと涙がこぼれた。手の甲で涙を拭い始める美月さんに、俺は思わず動揺してしまった。
「そもそもどうして悪王子が美月さんと結婚したいのか、俺にはよく理解できません」
「美月は月姫命を宿す巫女神であると同時に、悪王子神を封じた蓬莱明光の末裔。悪王子様が惹かれるのも無理はなかろう。そして、神や人の霊魂は、『一霊四魂』──一つの霊と四つの魂から成り立つと言われておる」
「四つの魂?」
「四つの魂を『荒魂』『和魂』『幸魂』『奇魂』と呼ぶが、これは神様の性格のようなものだと解釈してもらってもよい。悪王子さまが大蛇であった頃は、猛る『荒魂』の状態であった。ところが、明光に討たれてからは、穏やかな『和魂』になられ、娘を食べないと約束した。しかし、神力の衰えを感じられた悪王子様は、美月を妻とすることで霊能を得たいと思われたらしい。わしとて孫を差し出したくはないが、悪王子社の宮司としての責任もある。すぐに結論は出せんが、分かっているのはこのまま何もしなければ雨は降らぬという事だけじゃ」




