#11 お狐様はジューンブライド 前編
俺は立ち上がった。神社の仕事や家事のせいで集団から孤立し、あやかしと遊んでいる幼い美月さんの姿が心に浮かんだ。
「美月さんがどんな思いで巫女神の役目を引き受けてると思ってるんだ。幽浅は表の部分しか見ていない」
「なにが『月姫さん』よ。蓬莱さんは言われるままに綺麗な着物を着て、高い席に座って、ただ頼まれて舞ってるだけじゃない。全部周りにお膳立てしてもらって、ご先祖様がしてることと同じことをただ繰り返してるだけなら、楽ってものよね。能動性も知恵も工夫もないわ」
「巫女神の役目がどんなに大変か君は分からないのか? 朝早くに起きて、人々の幸せを祈り、境内を整然と整えて、学校から帰ったら参拝者の対応をして、休みの日も神事に追われてる。その神事だって、失敗は許されないんだ。社務の現実は野良仕事に雑務が山ほど、神事や舞など覚えることも多い。一日が終わるととてもくたびれる。伝統やしきたりを守るには相当な忍耐と努力が必要なんだ。地域の人たちに貢献する気持ちと、自分の身を犠牲にする覚悟がないと務まらないよ」
「私に説教しないでよ。大体、蓬莱さんが髪に挿してるユリの花ってお葬式とかで使う縁起の悪い花でしょ。それにあんたの親はさ……」
「やめろよ」
「魂美。アンタいい加減に……」
俺と般若が制止しようとした時、美月さんが言った。
「私の両親はみんなから祝福されて結婚したの。ユリの花はお父さんがプロポーズの時にお母さんに贈った特別な花なの。あなたにどうこう言われる筋合いなんてない。それに神事はたくさんの人の力を借りて斎行してるの。私はその中の一部を担わせていただいているだけ。自分が特別だなんて思ってない」
おとなしい美月さんが言い返してくるとは思わなかったのか、幽浅がすぐさま言葉を継げない様子で悔しそうに唇を噛んでいる。
「行こう」
集まってくる視線を感じ、俺は女子三人を連れて図書室を出た。




