#11 お狐様はジューンブライド 後編
「魂美のあの顔見た? 美月、言い返すなんてやるじゃん」
「わたし、怖くて何も言えなかったけど、瀬戸くんと美月ちゃんの言ってることが正しいって思ったよ。美月ちゃん、昔からみんなの見えないところで頑張ってたもんね」
「私も本当は怖かったよ。でも、お父さんやお母さんを悪く言われて、大切なユリの花まで侮辱されるのがどうしても嫌だったの」
顔を上げた美月さんは、いつもよりも顔つきがしっかりとして見えた。
「美月と友達になったのは小学五年生の時だったかな。美月、卜部としか話してなかったから心配だったんだ。でも、こうやってみんなが一緒にいるのはやっぱり美月の人徳じゃん」
「みんな、ありがとう」
廊下を歩きつつ、美月さんが俺に問う。
「一つだけ分からないことがあるの。すぐに亡くなることが分かっていたら、お父さんとお母さんは結婚しなかったのかな」
「たとえそうだったとしても、二人の意志は変わらなかったんじゃないかと俺は思う。暗闇の中を進む花嫁行列の心境で、何があっても耐える覚悟で一緒になったと思うから」
俺の言葉を、噛みしめるようにじっと聞いていた後、美月さんが言った。
「あの時、夏輝くんが桃井先生に巫女神信仰のことを真剣に聞いてくれて嬉しかった」
「未婚が条件というのは問題があると思うけど、巫女神信仰そのものは悪いものじゃないと思う。君は実際に『月姫さん』としてたくさんの縁を結び、誰かを幸せにしてると思う。君がいなかったら俺も朧もどうなっていたか分からない」
「夏輝くん。巫女神信仰はいつまで続くのかな」
「あの時、桃井教授は言った。社会に悪影響を及ぼすような『迷信』なら打破すべきだと。『巫女神信仰』の正体が分かったとき、君は本当の意味で自由になれると思う。いつまで現世にいられるかは分からないけれど、俺もできるなら巫女神信仰の真実を最後まで見届けたい」
「夏輝くん。ありがとう……心強いよ」
黒いまつ毛に縁取られた潤んだ目で見つめられると、胸が苦しくなる。勘違いするな、現実を見ろと自分に言い聞かせる。俺は神力使いとしてただ頼られているだけなのだから。
ふと、窓の外から激しいにわか雨の音がした。しかし、雨が降っているのに金色の太陽は雲間から差したままだ。
「天気雨?」
「夏輝くん。こういう天気を『狐の嫁入り』って言うんだって」
「あの狐の新婚さん、雛菊の谷で幸せになってるといいな」
「大丈夫だよ。だってあの狐さんたちはジューンブライドだもの!」
曇りなき瞳で微笑むと、美月さんが長い髪をなびかせて走っていく。必ず幸せになれるという六月の花嫁、ジューンブライド。六月の透き通った青い雨粒を集めて宝石に凝縮したみたいな、甘い砂糖菓子みたいなイメージの言葉だ。女子が憧れるその言い伝えも、いわば外国の民俗信仰なのかも知れないが、俺には別世界の言葉にしか思えない。
目を背けてはならないのは、月姫神社の巫女神信仰、そして蓬莱山の天女伝説だ。彼女に対して抱く切なく苦しい憧れの感情を、できるかぎり深い土の中にうずめて葬らなければならない。その感情が恋へと変貌を遂げ、お互いが不幸になる前に。
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次回、新たなる神様&脅威が!?
物語が大きく動きます!
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