#10 姫巫女の決意 前編
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祝宴もお開きになり、俺たちは雛菊の谷の狐に案内され、村はずれの洞窟にやって来た。
「この子狐と同じ、背中に星の模様が入った流れ者の狐がここにいる」
雛菊の谷の狐に続いて洞窟に入ると、大きな白狐が丸くなってうずくまっていた。
「こーん!」
朧が駆け寄って母狐にすり寄るが、反応がない。嫌な予感がした。白毛に覆われた体にこわごわ触れてみる。
──冷たい。
母狐はすでに息を引き取っていた。横に投げ出した足が痛々しく折れ曲がっているのを見て、雛菊の谷の狐が言った。
「数か月前、子狐に食べさせるために狩りをしていて崖から落ちたのだ。恐らくはそのケガが悪化したのだろう」
「ひどい。せっかくここまで来たのに、こんな事って。こんなにひどい事ってない」
俺達は美月さんのすすり泣く声を聞きながら、なすすべもなくその場に立ち尽くしていた。
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朧の母親を雛菊の谷の村に埋葬して帰ってきた頃には、東の空が明るくなりはじめていた。帰り道は誰も口を聞こうともせず、黙々と山道を歩いた。月姫神社の裏鳥居が見えてきた頃、ようやく巴が口火を切った。
「悲しいけど、現実問題として朧をどうするか考えないとね。この子はまだ子狐だ。生きていく知恵を学ばなきゃいけない。僕は野狐の里に預けるのが一番いいと思う」
「俺もその意見に賛成」
「私は朧とお別れするなんて嫌……こんなに可愛くて、ふわふわだもん」
歩みを止めて朧にしがみつく美月さんに、巴が諭すように言う。
「あのねぇみーちゃん。可愛いだけじゃダメなの。最後まで面倒を見る責任があるんだよ?」
「一生懸命お世話するし、私が教えられないことは野狐の里に通って教えてもらうから」
美月さんが真剣な表情で答えると、巴がふっと笑って朧の背を撫でた。
「そんなわけで朧、今日からこの二人が君のお父さんとお母さんだよ」
「えっ! なんで俺が……」
巴の言葉に、俺は激しく動揺する。急にそんなことを言われても、いつまで現世にいられるかも分からない上に、美月さんへの想いも封印すると決めたばかりなのに、また気持ちが揺らいでしまうじゃないか。
「さっき、朧の親を探すんだって言いながら化け猫と戦っていたのは誰だ? 君が父
親に適任だろう」
朧はかつての俺の姿だ。別の世界から来て、頼るものが何もない状態だ。美月さん達に助けてもらったように、俺も朧のために何かしたいと思っただけだ。
「それに二人仲良く婚礼衣装も着てたし、丁度いいんじゃないのぉ?」
巴がにやついた笑いを浮かべる横で、美月さんが朧を抱きしめた。
「朧。今日から私がお母さんだよ」
「……まあいいか。俺がお父さんだ」
「朧かわいい! モッフモフぅ! みんな撫でて撫でて!」
美月さんや朧を見ていて、血縁で結ばれた者同士がいつまでも一緒にいられるわけではないと知った。逆に、結婚によって他人同士が家族になったり、赤の他人が誰かの親になることもある。では、家族とは一体何なのか。
恐らくそれは、心の繋がりだ。俺も常世にいる両親に会いたい。帰ったら、いっぱい話して、家の手伝いなんかもして、思い切り親孝行したい。明けの明星が輝く空の下、みんなと朧を撫でながらそう思った。




