#9 五十橿(いかし)八桑枝(やくわえ)のごとく 後編
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新郎新婦らを言祝ぐ宴が始まった。
「巫女神様、たんとお食べください」
野狐たちがうやうやしく捧げる山のような供物に、美月さんが目を輝かせた。
「きゃあ! 美味しそう」
俺と巴の間では、美月さんが物凄い量のご馳走を平らげていた。祝いの膳は、赤飯に山菜の天ぷら、根菜の煮物に吸い物、鯉の刺身を冷水で締めた「洗い」、鰻のかば焼きにすまし汁だ。小豆ではなく大粒の金時豆を使用した赤飯の、ほのかな甘さと粘り。山の中の清流を泳いでいた鯉は、臭みがなくあっさりとしていて、それでいて甘みが感じられる。
次々とお代わりを平らげた美月さんの前には大量の空になった器がうず高く積み上げられ、やがてその姿が見えなくなった。さっきまで神前で優雅な舞を舞っていた巫女神様の恐るべき食欲に野狐たちが圧倒され……いや、引いている。巴が美月さんを肘でつついた。
「ちょっとは遠慮した方がいいんじゃないのー?」
「だって、巫女舞はカロリーを消費するんだもの」
「いいぞ美月さん。さっきの舞、まるで天女が舞ってるみたいだったよね。でもさ、消費したカロリーの三倍は回収してるんじゃない?」
「えーとぉ……」
俺たちが笑い合っていた時、狐たちの祝い唄が始まった。
「さあさあ、陰陽師様に神力使い様もご一緒に!」
巴が手拍子をはじめ、俺たちも続く。結婚という人生儀礼によって、赤の他人同士の縁が生まれる。結婚は、男女の縁だけではなくて、家を繋ぐ、血を繋ぐ。だが俺と美月さんは住む世界が違う。だから、これ以上の縁は繋げない。狐たちの祝い唄が盛り上がっていくのに比例して、俺の心はますます沈んでいった。




