#7 護れ、姫巫女の願い 前編
俺はとっさに手に持っていた提灯をぶち当てた。
「ぎゃん!」
「花嫁には指一本触れさせない!」
そう言った時、心の中のためらいが消えた。巫女神を降りるまでは未婚でいなければならない美月さんだが、花嫁衣裳を着せてもらった時は、本当に嬉しそうだった。月姫神社の桜梅桃李が満開になり、帰り道が開いたら俺は家族や友人の待つ常世へ帰る。でもせめてこのひと時だけは、せいいっぱい彼女の夢を叶えて花婿を演じよう。
「鼓を打たせてはダメだ。神力のバランスが崩される! 鼓を狙うんだ」
美月さんが懐から切幣を取り出し、あやかしたちの鼓めがけてぶちまけた。切幣は、細かく切った和紙と榊の葉にお米を混ぜたもので、祓いの力がある。あやかし達の攻撃が緩んだ。
「夏輝くんうまくいったよ!」
「いい感じだ! 俺達で必ず朧を母親の元へ返そう」
俺の言葉に美月さんがうなずいた。美月さんが切幣で、俺が神力で、一緒に化け物の鼓を狙い撃墜させていく。鼓を封じられ、百鬼夜行が正体を現した。
現れたのは紋付袴姿の狸たちだった。妖術をかけられていたので分からなかったが、化け物が打っていたのは鼓ではなく、狸の腹鼓だったらしい。
「夏輝、気を緩めるな。狸は人に憑くぞ」
呪符を投げつけながら巴が叫ぶ。
「狸に憑かれたらどうなるんだ?」
「食欲がおさまらなくなり、餓鬼のように食べ物をむさぼり続ける」
俺は美月さんを見た。
「……影響なし!」
「夏輝くんひどい!」
先ほど夜道で感じていた、得体の知れない恐怖感のようなものがいつの間にか消えているのを感じる。
人生は五里霧中、何が起きるかは分からないけれど。それでも自分が本当に好きだと思える相手となら、たとえ暗闇の道でも一緒に突き進んでいけるのではないだろうか。
その時、美月さんが闇の中を指さした。
「あれを見て。私たちが祓うべき相手は狸さんたちじゃないと思う」




