#6 百鬼夜行との遭遇 前編
──可愛い。
「夏輝くん、巴くん、どう? 似合う?」
花嫁衣装に袖を通したのが嬉しいらしく、顔が紅潮している。
「す、凄く似合ってるよ!」
本当はもっと褒めるべきなんだろうが、あまりの可憐さに言葉が出なかった。よりにもよって好きにならないことを決意した矢先に、これでは意識せざるを得ない。
「どっちかっていうと悪くないんじゃないの? まぁ夏輝がどうしても嫌だって言うなら、仕方ないから僕が花婿役を代わってあげなくもないこともないけど?」
美月さんの光り輝くような美貌に、急に巴の態度が豹変した。
「い……いや、せっかく着せてもらったし俺頑張るから!」
「キミたち二人ってホントに考えていることが分かりやすいよね」
つづらが俺と巴を見ながら呆れた様子で言った。
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いよいよ雛菊の谷へ向けて、狐の花嫁行列が出発した。深夜の山中を、提灯の明かりを頼りに花嫁の美月さんと並んで進んでいく。後ろでは、巴と朧が赤い和傘を俺達二人の上にさしてくれていた。後ろには和装の狐たちがずらりと列をなし、列の中には輿に隠れた本物の花嫁がひっそりと混じっている。最後尾には箪笥や長持ちといった家財道具を持った狐たちが続く。
「これが結婚式か」
聞こえてくる音は夜風にさざめく葉擦れの音と、花嫁行列の草履の足音くらいだ。
「ごめんね夏輝くん。いつも厄介事に巻き込んでしまって」
「いやいいよ……俺、献花祭の時に、君の荷物を半分もらうって約束したよね。それに巫女神のボディーガードは俺の役目だし」
「ありがとう、夏輝くん。それにしても『結婚する』ってこんな気分なんだ。私たちが行くこの道は、もう後戻りはできないんだよね」
「確かにこれで人生が変わると思うと怖いね」
「嬉しいけれど不安。お父さんとお母さんもこんな気持ちで結婚式を挙げたのかな」
結婚。それは人生の大きな分岐点だ。美月さんの両親は、自分たちが幼子を残して早くに世を去るとは夢にも思わなかっただろう。人生、何が起こるか分からない。この先の結婚生活に大きな不幸が待ち受けていることが最初から分かっていたら、美月さんの両親はそれでも結婚したのだろうか。
そんなことを考えながら、この先に何があるのか分からない闇の中を、俺は花嫁や親族と一緒にひたすら突き進んでいくしかなかった。
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突如、ざわざわと生ぬるい風が吹いた。人ならざる気配を感じた瞬間、巴が言った。
「動くな、気配を消せ。なるべく呼吸を止めろ。百鬼夜行だ。見つかったら魂を取られるぞ」




