#5 狐の嫁入り 後編
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俺達一行は、野狐の里に招かれた。山中に白木を組んで作った野狐達の屋敷があり、紅い狐火の提灯が点々と灯っている。一番奥の座敷には、数百年生きているという野狐の長老が座っている。長老の瞳は、ふさふさとした長い髭と白毛で覆われていて、今一つ表情が読めない。
「その子狐、西の方からたった一匹で歩いてきたのを見た者がおる。大方、雛菊の谷から来たのじゃろう。ちょうど今から、花嫁行列が二十年ぶりにこの狐の里から雛菊の谷まで向かうことになっている。花嫁行列と一緒に朧を送り届けてもよい」
「さっき『めでたき日』って言ってたのは、今日が狐の嫁入りの日だったからなんですね」
「そこでだが。実は最近、峠に魔物が出ると言う噂がある。巫女神さまに神力使い、そして陰陽師のあなた方を見込んで、どうか雛菊の谷に着くまで花嫁の護衛をお
願いできないか」
「夏輝くん、巴くん、力になってくれる?」
「俺なんかで良ければいくらでも。それに巴がいてくれるから百人力ですよ」
「勝手に色々決めないでくれ。話が大きくなってきた」
俺の隣で巴が物凄く嫌そうな顔をしていたが、乗りかかった船と言うことで最後までいてもらうことにした。
「雛菊の谷で花婿と合流するまでは偽の花婿花嫁を立て、本物の花嫁は輿に入れて魔物から守り隠す予定です。そんなわけで、恐れながらどなたかに花嫁の身代わりをお引き受けいただければ有難い」
長老が言うと、襖が開いて畳に手をついた白無垢姿の花嫁狐が姿を現した。
「綺麗……」
天女を始祖とする巫女神のしきたりのせいで結婚が許されていない美月さんが、花嫁狐を憧れに満ちた眼差しで見つめるのを見て俺は胸が痛んだ。
「私があなたの身代わりになる」
「巫女神さま、よろしいのですか?」
「大丈夫。私だけじゃなくて、頼りになるボディーガードも二人いるの。必ず雛菊の谷に連れて行くから安心して輿に乗っていてね」
美月さんが花嫁狐の手を取ると、花嫁が安堵した様子で頷いた。
「それにしてもあなた方が月姫神社の関係の方だったとは、ご縁を感じます。この野狐の里は、隣の狸の里との縄張り争いが絶えず、化かし合いが続いていたが、二十年前に通りかかった若い人間の男女が『狸は山の西側に、狐は東側に住んではどうか』と提案してくれ争いが終結したのです。それが、月姫神社の娘さんとその婚約者じゃった」
「その二人は私の両親です。ずいぶん前に亡くなりましたけど」
美月さんが目を伏せた。
「それは残念なことじゃ。あやかしと人、両方の心が分かる素晴らしいお二人でしたのに」
「長老さん。後で私の両親の話を聞かせてもらってもいい?」
美月さんのお願いに、野狐の長老が微笑む。
「もちろんですとも。……さあ、そろそろ支度の時間じゃ」
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雛菊の谷に到着するまでの間、偽の花婿役を仰せつかった俺は、紋付の羽織袴に身を包み、巴の妖狐変化の呪符によって狐の耳と尻尾を生やさせられていた。俺と巴は花嫁の身代わりになった美月さんの護衛を仰せつかり、偽の花婿と傘持ちを務めることになったのだ。
「なぜ俺がこんなコスプレを。巴、恥ずかしいから代わってくれよ」
「やーだよ」
傘持ちと言うことで巴も色無地の着物に縞の袴姿に着替えているが、俺とは違い和装がよく似合っていた。着物を着せてもらった獣人姿の朧が、嬉しそうに尻尾を振っているのが可愛くて思わず頬が緩んでしまう。
「花嫁の準備ができました」
襖が開くと、純白の白無垢に身を包んだ美月さんが現れた。高く結い上げた黒髪を包む綿帽子に狐の白いふわふわの耳がついている。薄化粧を施したその顔は、少女の瑞々しさと大人の艶やかさが入り混じっていた。




