#5 狐の嫁入り 前編
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月姫神社の裏山へ入る美月さんの前に、俺は立ちはだかった。
「黙って一人でどこへ行くつもり? まだ昼間の事を気にしてるの?」
「夏輝くん」
「こんな夜中に女の子が出歩くなんて危ないよ」
「違うの。私、朧のお母さんを探そうと思って。夜なら他の野狐と遭遇しやすいし、情報を聞けないかと思って。朧の毛の艶がなくなって、だんだん弱ってきているもの」
「君は危機管理意識が足りない。一人でどこかに行って危険な目に遭ったらどうするの? それに朧はあやかしだ。ずっと従順でいてくれる保障もない」
「夏輝くんやおじいちゃんに心配かけたくなくて……」
俺が君のことをどんなに心配しているか、君のおかげでどんなに苦しい思いをしているかも知らないでと思うと、胸が締めつけられたように苦しくなった。
「心配するに決まってるだろ!」
思わず声を荒げてしまい、美月さんがうつむいてしまった。
「ごめんなさい。この子、私と同じで親がいないから、どうしても他人事と思えないの。せめてお母さんに会わせてあげたい」
「いや、俺の方こそごめん。つい言い過ぎた。一緒に親探しを手伝うよ」
その時、茂みから巴が顔を出した。
「巴くん」
「さっき夏輝から連絡があったんだよ。みーちゃん、あやかしに構うのもほどほどにしておきなよ。あいつらの中には人に憑く、人を喰う、涼しい顔で人を利用する奴もいる。その甘さはいつか身を滅ぼすぞ」
「巴、来てくれてありがとうな」
「気が進まなかったけど、君たちだけだと危なっかしいからね」
その時、俺達の周囲に妖しげな紅い炎が一面に灯った。闇の中で、金色に輝く目が何十とこちらを見ているのが見える。
「そら、早速お出ましのようだ」
巴が不敵に微笑みながら、術を発動せんと構える。
「よりにもよって、このめでたき日に乱暴をはたらくとは卑怯な人間どもめ!」
高く跳び上がる獣が、紅い炎を吐いた。大きさは俺ぐらいだが、体型がスマートですばしこい。俺は左手で顔をガードしながら、右手で神力を放った。青白く輝く神力に照らされたのは、何匹もの野狐だった。野狐が敏捷な動きで神力をかわす。
「神力使いがいるぞ!」
野狐たちがざわめき、緊張が走るのが分かった。
「野狐に憑かれると厄介だ。妖力を封じてから話をした方が早い」
巴が素早く空中で九字を切り、『犬』の字を書くと、四頭の黒い犬が出現し、吠えながら野狐たちに襲いかかった。野狐たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「巴くん待って!」
美月さんが朧に抱きつきながら叫んだ。
「野狐のみんな、誤解しないで! 私達は朧をさらったんじゃない。みんなを傷つけようとしているわけでもない。この子のお母さんを探しているの」
美月さんの腕の中で朧がこーん、と甘えるような声で鳴いた。巴が術をおさめ、野狐たちも静かになった。




