#4 蓬莱山の天女の罪は 前編
──美月さんが天女の末裔。
その言葉に、俺は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。人の心の琴線に触れるような見事な舞いぶりは、彼女の始祖が天女だからなのか。納得するとともに、手を伸ばせば届きそうな距離にいた美月さんが、一気に遠い存在になってしまった気がした。
胸が苦しい。常世人の俺には関係ない話なのに、なぜこんなことで心が乱されてしまうんだ。
「天女は蓬莱山に流れ着いた人間の青年と恋に落ちましたが、禁忌を破ったために別れさせられ、蓬莱山を追われました。そしてこの鳳凰の地に流れついて、やがて私どもの先祖となったと伝えられております」
静かな拝殿に響く宿禰さんの言葉を、俺達は黙って聞いていた。天女と人間の悲恋の伝説に、俺はいつしか感情移入してしまっていた。禁忌を犯したために人の身に落とされて数千年の寿命を失い、末裔に至るまでつらい巫女神の役目を引き受けなければならなくなった天女の罪は、いつ許される日が来るのだろうか。
「蓬莱家では天女を祖先神としていると。それで、巫女神になる条件や、役目の上での制約というのは?」
「巫女神は日彦命の妻。未婚であることが条件です」
──美月さんが日彦命の妻。
宿禰さんの言葉に、俺は頭が真っ白になった。隣の美月さんを見ると、膝の上のこぶしを固く握ったまま厳しい表情でうつむいていた。昼間に彼女が家の事情で結婚は先の話になると言っていたのは、神の妻だからなのかと俺は衝撃を受けていた。
「先代の巫女神は美月の叔母でした。しきたりでは、美月の兄に女の子が生まれるまでは、役目を降りることができないことになっている。わしはこの子が不憫で仕方ないのです」
いつか常世を見せてあげると約束した時の、美月さんの花の咲いたような笑顔を思い出す。常世に強く憧れるのは、しきたりと慣習で自由な意志を縛られているからだろう。
「あの……! 巫女神信仰は、どうすれば終わらせることができるんですか?」
たまらなくなって桃井教授に問う俺を、宿禰さんと美月さんが驚いて見た。
「部外者の俺が言うのもなんですけど、先祖の罪とやらをいつまでも贖い続けなければならないなんて理不尽だと思うんです。月日舞は残すとしても、せめて生き神の部分だけでも廃止できればと思うんですけど」
桃井教授が神妙な顔つきで俺に膝を向けた。
「例えば、病気になった時、農作物が不作になった時、その原因を神様の『祟り』にして、ある行動を『禁忌』とし対策のための『呪法』を行う。これが民間信仰の側面ですが、その禁忌や呪法が社会に悪影響を及ぼすならば、悪い迷信として打ち破るべきだと私は考えます」
「だったら……!」
桃井教授が、厳しさをたたえた瞳で俺を見た。
「ただ、迷信かどうかを見極めるには、学問による検証や根拠の集積が必要なんです」




