#3 天女の末裔 後編
「桜桃大学文学部教授──桃井一郎先生ですか」
「私は日本の民間信仰の調査研究に携わっておりまして。通常、巫女と言うものは神社に属して神楽で神慮を慰める『神社巫女』と、神や霊魂を体に降ろして託宣をおこなう『口寄せ巫女』の二種に分類されるのですが、月姫神社の巫女神のように、この両者が融合し神格化したパターンは非常に稀で、ぜひお話を伺いたいのです」
「巫女は本来神に仕える女性ですが、女神『月姫命』を宿すあいだは『巫女神』となります。巫女神は、代々蓬莱家の女子が豊穣と縁をもたらす月姫命を宿す依巫となり、厄や穢れを祓い、いくさの勝敗や農作の吉凶を神託として伝える存在でした。現在では、月姫命の神力を維持する器としての役目が主でございます」
「代替わりするという点では、皇女が伊勢の祭神に仕えた斎宮や、ネパールの生き神『クマリ』に一部通じるものがある。大陸からの宗教思想が伝播した可能性もありますな」
俺の隣では、幽浅の中傷に落ち込んだ様子の美月さんが、大量の水ようかんをやけ食いしていた。
「見た所は普通の女子高生で、特筆すべきは旺盛な食欲くらいか……ご祭神は?」
「神社に伝わる文献は、千年以上前のもので破れて読めない箇所が多々ございます」
宿禰さんが巻物を広げ、月姫神社の縁起を説明する。
「日彦命が常世へ奉遷する前の月姫神社は、月日神社という名前だったんですね。月姫命と日彦命は古事記や日本書紀の系譜には存在しない神名です。神社神道と民間信仰の融合型か。まことに興味深い」
桃井教授がうなずきつつ巻物に見入った。桃井教授の熱意が宿禰さんは嬉しかったらしい。神楽を見せて欲しいと頼まれ、拝殿で実演することになった。
「月日舞──これも、他の神社で舞われている神楽と全く系統が異なりますな」
宿禰さんの太鼓に合わせて舞う美月さんを、桃井教授が驚いた様子で見つめた。神事に応じた何種類もの巫女神楽をマスターしている美月さんだが、この月日舞は、俺が初めて美月さんと出会った時に舞っていたものだ。豊栄舞や末広舞と言った他の神楽と比べて舞のテンポが速く、回転したり腕を上げる動作も多いため、そのたびに美月さんの身を包む薄紅の装束が天女の羽衣のように長くたなびくのが印象的だった。
「通常、神楽は宮中の御神楽と民間の里神楽に大別されますが、この舞は里神楽であるにもかかわらずインドや中国大陸の影響を受けているように見受けられます」
「この月日舞は、蓬莱家のみに伝わるもの。我々の先祖は海の彼方の理想郷──蓬莱山に住む天女だったと伝えられております」




