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#3 天女の末裔 前編

⛩⛩⛩


 男神のイザナギは、女神イザナミと二人で日本の国を産んだ。ところが最後に火の神を出産した後、女神イザナミが大やけどを負って亡くなった。


 悲しんだイザナギは妻を連れ戻しに死者のいる『黄泉よみの国』へと向かう。


 女神イザナミが『現世に帰ることを黄泉の国の神に相談する間、決して自分の姿を見ないでほしい』と頼むが、男神イザナギは待ちきれず禁忌を破り、死者となって変わり果てた妻の姿を目にしてしまう。美しかったイザナミの体は腐って虫がたかり、八柱の雷神たちに支配されてしまっていた。


 妻のおぞましい死後の姿に恐れをなして逃げ出したイザナギにイザナミは怒り、黄泉の国の女達に命じて追ってくる。イザナギは黄泉平坂よもつひらさかで現世と黄泉の国の境目を大きな岩でふさいだ。


 イザナミが「この世の人間を一日で千人殺す」と言うと、イザナギは「それなら私は一日に千五百人生もう」と返した。


 その後、イザナギが水辺で身を清めると、天照大神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみこと、そして素戔嗚尊すさのおのみことの三柱の神が生まれた。


⛩⛩⛩


「黄泉の国に行くのは無理だって分かってるけど、顔をそむけたくなるような死者の姿になっていてもいいから、お父さんやお母さんに会いたい。そして聞きたいの。結婚に後悔はなかったのか。本当に二人は幸せだったのかって」


 風に揺れるユリの花を見つめながら瞳を潤ませる美月さんに、俺は何と言葉をかけていいか分からなかった。


 月姫神社の境内に入ると『桜梅桃李』の木が揺れていた。月姫命の神力で災厄を祓い、誰かの縁を結ぶたびに、花が少しずつ咲いて鳥居の結界を押し開けるという桜梅桃李だが、先日の小桜山での憑きもの騒動と万引き事件が解決したため、白く清楚な『スモモ』の花が少しだけ咲いた。


 ただ、助けた人の数が多くないのと、巫女神の守護者としての役目を本格的に果たしていると言えないせいか、『桜』の時ほどは咲いた数が少ない。桜梅桃李のこれまでの咲き方を見ていると、やはり大きな厄災を祓って大勢の人を助けた方が開花のスピードが速いことが推測できる。


 常世に帰るまでにはまだまだだ、とため息をついた俺ははっとした。


 もしかすると、桜梅桃李の花が一度に咲いて常世に帰るためには、より多くの人が巻き込まれるような災いが起きて、美月さんがもっと危ない目に遭わないといけないのではないかという恐ろしい考えが脳裏をよぎった。


 それに神力使いが現れる時には、月姫命の存在に脅威を与えるような厄災が起きると言う。その大厄災を祓い美月さんを護れば、一気に花が咲いて常世に帰れるかも知れない。


 そんなひどいことを考えちゃいけない。誰かを不幸にして、自分だけが救われようだなんて最低の願いだ。俺は慌ててその考えを振り払った。


 社務所には宿禰さんとスーツ姿の初老の男性が向かい合って座っていた。促され、俺たちも一緒に座る。手渡された名刺を、宿禰さんが難しい顔で眺めた。


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