#5 月の輝きを追いかけて 後編
「私が小さい頃、お父さんが忙しくてあまり家にいなくて。あの時泣いたのは、月が欲しかったんじゃなくて、一緒にいてほしくてわざとお父さんを困らせたの。でもこのユリは、お母さんが好きな花でね、お父さんがよくお母さんにプレゼントしてたの。夏輝くんが私の髪につけてくれていた時、家族みんなで楽しく過ごした時間を思い出したんだよ」
美月さんが微笑んだ。
「私、今日は物凄く楽しかった。夏輝くんが遊びに連れ出してくれて。ユリの花の髪飾りをもらって、気分が変わった。私は自分が幸せ者であることに感謝しなきゃと思ったの。心配かけてごめんね」
美月さんが笑った。
「良かった。やっと笑ってくれて」
いつもの笑顔とその言葉にひとまず安心した。
「そう言えば夏輝くん、オシャレすれば気分が変わるなんて、誰の名言? さっき、ショートヘアの可愛い知り合いの話を連発してたよね。はっ! 夏輝くんまさか常世にいい人が?」
後ずさりをする美月さんから目を逸らし歩きだした俺はしどろもどろになっていた。
「お、俺にだって女友達くらいいるから……」
「ホントかな? あっ目が泳いでる! その女友達についてもう少し詳しく!」
「だから単なる友達だって!」
「あっ待って! 逃げるの反則!」
美月さんを元気づけようと思って連れ出したつもりだったが、元気をもらっていたのは俺の方だった。
空の向こうは夜になり始めていて、輝く星々の間には、あのムーンストーンのような月が静かに輝いていた。帰れないけど、俺はなんとか元気でいますと常世の家族に伝えたい。そして、いつの間にかこの不思議な『現世』にもほんの少しだけ慣れてきたことに気づく。俺ができることは多くないかも知れない。でも、早く桜梅桃李の花を満開にして両親の待つ常世に帰る。月を眺めながら、俺はそう心に誓った。




