#5 月の輝きを追いかけて 前編
「ほらほら、あっちにも可愛い小物がたくさんあるし!」
美月さんが俺の腕を引っ張った。店の中にはたくさんのアクセサリーや小物がひしめいていたが、あのネックレスを超える逸品がなかなか見つからず困っていた時、俺の目にふと光るものが止まった。
それは、虹色の光をまとったピンクのユリの花の髪飾りだった。
「これ、きっと美月さんに似合うよ」
「ユリの花……私これがいい!」
ユリの花を見つめる美月さんの視線に熱が帯びていた。きっとユリの花が好きなのだろうと俺は思った。
「じゃ、これをください」
店主がそっと俺に言った。
「これは螺鈿と言って、貝殻の裏の虹色の部分を継いで作った特別な品なんです。彼女さんへのプレゼントなら、あなたが直接つけてあげた方が喜びますよ」
「えっ!」
俺が動揺していると、美月さんが顔を真っ赤にしてうつむいた。
「夏輝くん。……つけてくれる?」
「う、うん」
またつづらにチャンスを逃すとか言われそうなので、俺は覚悟を決めて震える手でピンクのユリの花の髪飾りを手に取り、美月さんの絹糸のような長い黒髪につけた。店主が差し出した鏡の中には、頬を桜色に染めた美月さんが瞳をきらきらさせているのが見えた。
「きれい。夏輝くんありがとう。これ、巫女装束の天冠にも使えそう」
「ど、どういたしまして……」
清楚なピンクのユリの花が加わったことで彼女の表情が明るく華やかになり、俺はいつの間にか瞳が釘付けになっている自分に気づいて恥ずかしくなった。恐るべきことに、どうやら巫女神様には、あやかしだけでなく俺まで魅了する力があるらしかった。月のネックレスは惜しかったが、ピンクのユリの髪飾りをつけた嬉しそうな美月さんを見ているだけで、俺の心に明るい陽光が射してきた。
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「この間までは営業してたのに……!」
あんみつでも食べようと訪れた甘味処の前には、悲しくも「閉店のお知らせ」の紙が貼られていた。甘味処の前のベンチで俺は愕然と肩を落とした。冷たい風が俺たちの間を吹き抜けていった。
「まさか俺の不幸が移って閉店したとか……どうしよう……」
「夏輝くんのせいじゃないから。あっ、ちょっと待っててね!」
美月さんがセーラー服のスカートをひらめかせ、どこかへ走って行ってしまった。
しばらくして戻ってきた美月さんが、手に持っていた紙包みをくれた。
「お待たせ! 熱いから気をつけてね」
思わず腹の虫が鳴るような、美味しそうな匂いが漂ってくる。包みを開けると、香ばしい匂いと共に現れたのは、揚げたてのコロッケだった。近くの商店街で買ってきてくれたらしい。
「ありがとう。そう言えば、いつの間にか腹が減ってた」
サクサクとした細かい衣を噛む。バターの香りを放つ甘いじゃがいもと、牛ひき肉の豊かな風味が絶妙に絡み合う。コロッケが胃の中に落ちていくと、不思議と気持ちが落ち着いた。温かい食べ物が、こんなに人を幸せにしてくれるなんて。
美月さんが包みの中から新たなるコロッケを取り出し、「美味しい! コロッケは揚げたてに限るよね」と満面の笑みで頬張った。
「え? コロッケ何個買ってきたの? ちょっと見せてよ」
頬を膨らませ抵抗する美月さんから包みを取り上げて中を見る。
「ちょっと待って。ニ十個くらい入ってない? まさかこれ一人で全部食べる気?」
「月姫様の分も食べて栄養をつけないとね」
美月さんのいつもの恐るべき食欲が戻っていることに気づき、俺の口元が緩んだ。
「夏輝くん。今日はすごく楽しい一日をありがとう」
「いや。俺も楽しかったです……」
美月さんがユリの髪飾りに触れながら、にこにこしている。
「嬉しいな」
「ごめん。月をプレゼントするとか言っておきながら。俺って本当に運が悪い。そしてダサい」
俺は頭を抱えた。
「あのね。私、本当は月が欲しくて泣いたんじゃないの」
「え?」




