#4 儚くも美しく 前編
髪をリボンやカチューシャで女の子らしく飾り立てた女子高校生たちが集団で文句を言ってくる。
──三白眼って言うの? 目がキツくて怖いんだよね。
──ガタイもいいしさ。ケンカしたら強そう。
──違う。私には誰かに対する攻撃意志なんてない。三白眼で吊り目なだけで、どうしてこんなに責められなきゃならないの。
ショックを受けている万引き女の心が心ない悪意で傷つけられ、俺の心もえぐられるように痛くなった。
──ねえ、男子も怖いって思うよね。
ボスの女子が窓際にいた三人の男子たちに誘導尋問すると、勢いにのまれて一人が頷き、ややあってもう一人も「そうだ」と肯定した。その中に、万引き女の想い人である背の高い聡明そうな男子がいた。彼は必死な瞳で、もの言いたげに万引き女の方を見つめた。好きな男子の前で恥をかかされて耐えられなくなり、万引き女が泣き崩れた。
──恥ずかしい。もう全部忘れたい。怖いと言われた三白眼といかつい顔と肩は、
髪を伸ばして封印しよう。高い身長は猫背でごまかそう。せめて女の子らしく、優しいお花がいっぱい描かれたフリルたっぷりの服で、心を守ろう。
でないと私、生きていけない。
その後、女が髪を幽霊のように長く伸ばし、長い髪とフリルたっぷりの花柄のワンピースで自分の顔と体形、そして存在感そのものを殺していく様子が見えた。
「祓い給え!」
とどめに、俺は右手から青白く輝く神力を放ち百々目鬼を祓った。女が驚いている。
「わ……私の腕が元通りに……?」
「腕に憑いたあやかしは俺達が祓いました。ずいぶんと悲しいつらい思いをしてきたんですね」
「わ……私を見て怖いって思わないんですか?」
「俺はそうは思いません。人に平気で心ない言葉を投げる人間の方が怖いと思います」
隣を見ると、美月さんが澄んだ目でうなずいた。女の前髪の隙間から覗いた大きな瞳が恨みがましそうに俺たちを見た。
「そんなの嘘に決まっています。みんなが私の見た目をキツい、怖いって言うんです。私にはもう恋愛は無理です。だから、幸せそうな恋人達が集まってくるこのお店が許せなくて。……悪いことをしたとは思っています」
俺は言った。
「人は誰かの容姿にどうこう言いたがるけど、その言葉ってどれくらいの信憑性があると思いますか?」
「その言葉がすべてで、真実なんだと思いますけど」
「俺の知り合いが髪切った時に、クラスの女子に髪切らない方が良かったって言われてたんです。でも、明らかにショートヘアの方が可愛くて、男子からも評判が良かったから、妬まれてるんだってすぐに分かりました。あなたもそうだったんじゃないですか?」
「そんなの違います。あの時、男子たちもうなずいていたし、私の好きな男の子も……」
女がうっ、としゃくりあげた。
「そのひどい女子たちはあなたと同じ男の子が好きだった。だからあなたをつぶそうとしたんじゃないですか? そして、男子たちは同調圧力の中で本当の気持ちが言えなかった。本当はあなたを綺麗で可愛いと思っていたのに」
俺が陰険女子たちに言い返した時、白川ゆりあが俺を潤んだ瞳で見つめていたことを思い出した。でも、この女性は不幸にも助けてくれる人間が周りにいなかった。
「そんなの信じちゃダメ。だって、お姉さん綺麗だもの」
ネックレスを万引きした見ず知らずの女を一生懸命に励ますお人よしの巫女神様の姿を見ているうちに、俺の心もだんだんと落ちついてきた。さっきとは女の印象がまるきり変わっていた。
「あなたたちも私を見て可愛いなんて思わないでしょう? 本当のことを言っていいんですよ。どうせ私はみんなみたいに可愛い格好をしてもモテない運命、もう生きていても楽しい事なんかないです」
人の悪意は、相手の価値観や人生さえも簡単に変えてしまう。そして一度傷つけられ、壊れた心はなかなか元には戻らない。過去の記憶と他人への不信感でこわばった心に苦しむその姿はまるで、不幸に翻弄される自分を見ているかのようだった。俺は言った。
「……あの。オシャレしてみたらどうですか?」
「オシャレ?」
「知り合いが言ってたんです。気分を変えたい時はオシャレするに限るって。お姉さんなら、重たいロングヘアで顔を覆うよりも、髪型を変えて、服も大人っぽい感じにした方が似合うと思うんだけど。さっきのお店で自分に似合うアイテムを探してみたらどうですか?」
「ナイスアイディア!」
俺の言葉に、美月さんとつづらが顔を見合わせた。
「そういう事でしたら、ご提案させていただきますよ」
振り返ると、パーマがかった髪に、細身のジャケットを着た男性店長が立っていた。
「……本当に申し訳ありませんでした」
万引き女が泣きながら深く頭を下げた。
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一時間後、髪をゆるい感じのポニーテールにして、大人っぽい髪留めを付けた女性の姿があった。ワンピースの上からは鮮やかなブルーのショールを羽織り、耳には大ぶりのイヤリングをつけている。化粧をしてヒールの高い靴を履くと、背筋が一気に伸びて元々あった身長が生かされ、きりっとしたデキる女風になっていた。
「これが私? まるで生まれ変わったみたいな気分です」
「ほら、お姉さんすごく綺麗。きっと近いうちにいい事がありますよ!」
鏡を見て驚く彼女を、美月さんが満面の笑顔で褒めたたえた。
「わっ私にもいつか、あなたの彼氏さんみたいに素敵な恋人ができるかしら?」
女性が頬をほんのりと桜色に染めて、俺達二人を眩しそうに見つめた。
「ち、違います! 夏輝くんは優しいけど彼氏じゃないですよ! 違いますから!」
顔を真っ赤にして手を横に振り、美月さんが全否定する。
「俺が彼氏なのそこまで嫌なのか……」
そう言うと、手をグーにして胸をぽかぽか殴られた。
「違うんだけど違うの!」
「痛い痛い! ちょっと何を言ってるのか意味が分からない……」




