#3 百々目鬼(どどめき)後編
俺が叫んだ瞬間、足早に店のドアを開けて逃げ去っていく万引き女に客たちがざわめいた。
⛩⛩⛩
ドアを開けて店を出ると、万引き女が自転車に乗るところだった。
走り出すと同時に、女が自転車を立ち漕ぎしてスピードを加速していく。入り組んだ路地を右に左にと器用に曲がり、俺とつづらを翻弄する。長く走るにつれて息が切れ、だんだんと深い呼吸ができなくなってくる。だが、少し先回りするようにして工事中の迂回路に追い詰めれば、その道はアクセサリーショップへ戻る道へと繋がるはずだ。スピードを上げ、右折させないようにわざと女の右側に躍り出た。女が俺の思惑通りにハンドルを左に切り、小路を突き進む。
「待て!」
薄暗い小路には怪しげな一つ目のあやかし達が大量にひしめいていた。敵か味方かは分からない。
「防御!」
俺がつづらの神力を全身に薄く纏わせると、眩しそうに慌てて避けた。
「ナツキ、神力で防御を張るとは中々考えたね」
「ああ。でも、まだこっち見てるし気持ち悪いな……」
計算通り、迂回路に出た。アクセサリーショップは目の前だ。ここなら狭いし、他に通行人がいるからスピードも出せまい。最後の抵抗か、女が自転車を捨てて迂回路を走り出した。
「待て。ネックレスを返せ」
「わたし、わたし……もう嫌っ!」
「万引きしておいて……もう嫌ってどういうつもりだよ!」
女の腕をつかんだ瞬間、花柄のワンピースの袖がまくれあがった。バッグが滑り落ち、ムーンストーンのネックレスが地面に落ちた。その痩せた青白い腕にひしめいていたのは、ぎょろぎょろと動く無数の目だった。
「きゃああああ!」
自分の腕に貼りついた目を見て、女が悲鳴を上げた。美月さんが言った。
「あれは百々目鬼どどめきというあやかし……盗んだ品が腕に貼りついて『鳥の目』になったもの!」
「どうしよう。どうしよう私!」
「あんたが盗った品物は、お店の人がお金を払って苦労して仕入れてきたものだ! さっさと返して店の人に謝れ!」
俺が叫んだ時、美月さんが俺を制した。
「夏輝くん。もしかすると何か事情があるのかも。とにかく百々目鬼を祓ってあげようよ」
「今きっちり片をつけておかないと、また万引きを繰り返して店に迷惑をかけるんじゃないか?」
「でも、この人の心。悲しい苦しい気持ちでいっぱいみたい」
「……分かった」
右手から神力を放つが、百々目鬼の様子は変わらず、無数の目玉が瞬きしているだけだった。
「効かない?」
「私と夏輝くんとつづら様で目が六つ。目の数で勝たないと無理かも」
「あっ、さっき路地裏にいた一つ目! 美月さん、あいつらを使おう」
「新月!」
美月さんがうなずくと、路地裏からこちらを見ていた一つ目のあやかし達を新月の力で魅了した。路地裏の一つ目たちが一斉に飛び出て来て瞳から桜色に輝く妖力を放ち、百々目鬼が怯む。
その時、俺たちの脳内に万引き女の記憶と思われる映像が流れ込んできた。




